家路.1
市場の喧騒は、その間を行く2人の大人と、背負われた1人の子供を見ても、何も訝しんだりはしない。
「…こうしていると家族みたいに見えるでしょうね」
「…そうだね」
「…本当に家族ではあるとは言わないのね」
「そんなこと言う資格は僕にないだろう」
「じゃあどうして今更現れたりしたの?」
「夢を見たんだ。時々見る、予言の夢だ。僕に息子がいて、まもなく12歳になると告げられた。都にいるということも教えられたよ。だから思ったんだ。あぁ、僕の息子も、この血脈からは逃れられないんだなと。だから迎えに行って、旅立たせなければいけないと思った」
「勝手なことを言わないで。私はこの子を1人で街の外に出したこともない。そんな子供がなぜ1人旅などできるの」
「最初は僕が付いて色々教えようと思った。13になるまでに離れれば12のうちの1人旅を始めたことが成立するから、しきたりを破ることにはならないと思った」
「しきたりに縛られて、随分色々見失ってるように見えるけど?でも、じゃあ、その夢がなかったら、ずっとあなたは私たちに会いに来ようとは思わなかったわけね」
「会うすべもなかった。君はあの村にいる可能性だって考えていたし、僕は息子がいることも知らなかったんだ」
「でも……万が一ってことは考えなかったの?知らせることはできなかったから、知らなかったのは仕方ないだろうけど……遠目に私を見に来てくれたりしたってよかったじゃない!スフィヤはあなたにそっくりなのよ?そうすればきっと、すぐに気づいたわ!」
「正直言って、人間の女性との間に子供ができるなんて知らなかったんだ。僕らは、自分たちの血を濃く保つために、近しい者と結婚するのが普通だったから。旅の途中で出会えば、それが運命なんだよ。その人と夫婦になって、子を産み育てるんだ。そうやって生きていくことしか聞いたことがなかったから、知らなかった。魔力も何もない、普通の君みたいな少女との間に子供ができるだなんて」
「じゃあ……スフィヤはあなたにとって、望まれない子だったとでもいうの?この子がいなければ他の女性といつか巡り会って、血脈を濃くするための結婚をしたっていうの!?」
「そんなことは思っていない。君が彼を産んでくれたことは嬉しいし感謝してる。それは断言するよ」
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