求人.1

「で、お腹が痛いのは大丈夫?」

「えぇ…大丈夫です。すみません、いきなり」

「随分はやく良くなったわね。まあいいけど。押さえてる場所が下腹だったから心配は本当にしたんだけどな。で、何か用があったんじゃないの?女は私だけだから、1人部屋だから気兼ねしなくていいわよ。目的は何かしら?」


「わかっちゃったんですね……嘘だって。でもどうして?」

「お腹が痛い割に、私に重みをかけずに1人でちゃんと歩くからね。病人ではないとわかったわ。でも、こんなことをするって、何か理由はあるんだろうから、それに興味を持ったってのも大きいかしら」


「……私、実は子供がいるんです。お腹に」

「……おっどろいた……じゃあ、あながちお腹を庇っていたのは嘘でもなかったのね」

「それは自分でもわからないんですけど……それで、父親が村の男ではないんです。私は未婚ですから、両親にバレてしまい、家を出なければいけなくなりました。妊娠がいつかばれることは分かりきっていたので、ずっと考えていたんです。どうすればこの村を出られるだろうって」


「噂で聞いたけど、ここじゃ女ってだけで学舎にも通えないんだって?随分封建的な村だなと驚いたわ。そんな場所で1人で子供を産んで育てるなんて、まあ無理でしょうね」

「おっしゃる通りです。なので私は村を出る必要がありました。その為に、隊商の方に匿って貰えないかと思ったんです。知らない男性だけの隊商は、少し怖かったし、かといって事情が事情ですから、村の隊商に送ってもらうわけにはいきません」


「だから入口であんなことを言って、そして偶然私が現れたってことね」

「はい。あの……図々しいのは分かっているのですが、私を都まで連れて行っていただけませんか?」

「境遇に同情はするわ。でも私も商人の端くれなの。何の利益もなしに、むしろ途中で見つかったら信用問題につながりかねない、あなたのお願いを聞くわけにはいかないわね」

「分かっています。私の家も商人の家です。なので、代金をお支払いします」


「代金?いくら?」

「これでは…だめでしょうか?」

そう言ってラズは祖母に貰った本に挟んで置いた紙幣と、麻袋から取り出した数枚の金貨と銀貨を見せた。

「あのね…ただの旅費としては充分な金額よ?でもさっきも言ったように、あなたを隠して村を出るのはリスクがあるの。万が一バレたら、私たちはもうここに来て取引ができなくなるかもしれない。そのリスクまでは犯せる金額ではないわ」

「そうですか…」

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