予兆.2

 ラズは足早に酒場へと向かった。けれど正面からなど入らない。裏口へ向かい、戸を叩く。

「はーい、入口はこっちじゃないわ……って、あんた誰?」

頬を酒で赤らめた酌婦が出てきてくれた。都合がいい。

「あっ、私、隊商の人に用があるの。都から来ていて、布の買い付けに来てる人よ。女の人もいたわ。届け物があったんだけど、忘れてしまって。ここにはそういう隊商の人はいないかしら?」


「あんたここがどういう店か知らないの?女のいる隊商なんか、ここに来るわけないじゃない。いるとしたら、村の入口に近い健全な宿場に泊まってるんじゃない?昔からある村の入口じゃなくて、最近できた布張り街の北東の方にある門の所よ」

「ありがとう!」


 聞きたいことは充分に聞けた。後は今自分が言ったような隊商が実際に今日、この村に滞在しているかどうか賭けである。事情を話して都まで連れて行ってもらう。お金はお婆ちゃんに貰ったものと、お使いの度に少しだけお釣りを誤魔化して貯めた貨幣が小さな麻袋に入って、靴の中に隠してある。足りないと言われたら、途中から歩くとでも言って、とにかく今夜中に村を出なければならない。

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