知っていた者.6

 そしてその後は今回の騒動と同じだったそうだ。定期的に討伐隊の誰かが死ぬ。村人には犠牲が出ないことに安堵しながらも、人々は怯えながら日々を過ごす。けれど流れてきた多くの人を相手にモノと金の取引が進み、結果として村は潤う。


 村人の怯える気持ちと、数十人の不運な討伐者たちの犠牲と引き換えに、この特需は数年の間続いたという。祖母はその間に何度か討伐者たちに真実を伝えるべきか悩んだという。けれどそんなことをしたところで、もう既に公然の秘密であった掲示板は書き換えられてしまっていたし、根も葉もない嘘を平気で並べる子供と思われて、逆にこちらが罰を受けるかもしれない。


 最悪の場合なら、字が読めることがばれて、女だというのに勉強をした・それを許した家の環境を咎められ、一家諸共で罰を受けることになるかもしれない。思い悩むことに疲れた祖母は、いつしか考えることを辞めたのだそうだ。そうすることで生まれ持った大きな好奇心に蓋をして、たとえ作り上げられた偽物のような環境であっても、平穏を受け入れることを選んだのだと。しかしラズを見ているうちに、若かりし日の自分の姿を思い出して恐ろしくなったという。この孫娘もいつか自分と同様に、隠れて字を学んだりして、それが仇になるのではないか、と。

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