知っていた者.5

 祖母はその時、今のリピより少し大きくて、私よりも少し小さな歳だったらしい。そして私たちや他の女たちと決定的な違いは、少しだけ字を読むことができたこと。


 文字が読めるのは男だけであるのが当然のこの村では、掲示板も男たちの秘密の連絡に使われているだけだ。だって彼らは女がそれを読めるなんて思ってもいないから。けれど祖母には読めてしまった。


 人喰いの化物が出没しているという噂に村が震えている最中に、『人喰いの衣装』なんていう言葉が村の広場の掲示板に堂々と掲げられていることに疑問を抱かない方が無理であった。驚いてその文字を読み間違いではないかと凝視してしまった祖母を見て、近所の顔見知りのおじさんが声をかけてきたのだという。


「どうしたお嬢ちゃん。化物の絵が怖かったかい?」

「え?……えぇ。みんなが噂してる人喰いって、これのことなんでしょう?すごく怖くて、驚いちゃった」

「そうだろう。そいつは絵だからまだかわいいものだよ。実際に見た奴らの言葉じゃ、大人の男の俺でさえ震え上がりそうになったね」

「怖いね、おじさん」

「ああ。だから村から出たりしたら危ないからな。お父さんお母さんの言葉をよく聞いて気をつけるんだよ」


 そのおじさんとのやり取りで、祖母は少なくとも村の男たちが揃って何かを隠していることがわかった。だって掲示板に貼られていることと全く違う話をしてくるおじさん。少女だった祖母には字が読めないからと、たかを括って平気な顔で嘘をついたおじさん。

 

 でももっと怖いのは、父も兄も、男たちはみんなこの違和感を知っている筈なのに、誰1人それに疑問を抱いているようには思えない、むしろ積極的にそれを進めようとしていること。その後、都からの討伐者たちが村へ流れてくるようになると、『人喰いの衣装』の貼り紙はあっという間に剥がされ、同じ絵が書かれた『人喰いの目撃者の絵』というタイトルの紙に変わっていたのだという。男たちは嘘をついている。女たちだけではなく、外から来た討伐者たちにまで。その事実に気付いてしまった祖母は、震えて眠れない夜を過ごしたという。

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