静かな水面.2

 昼食の支度をしていると、青ざめた母が不安そうな妹を連れて帰ってきた。洗濯場でたむろする女たちのもとに男が来て、洗濯していた女たちの夫が死んだということを伝えて、村はパニックになったらしい。どこで死んだのか、なぜ死んだのかを女たちが尋ねても、男は首を横に振り「わからない」と繰り返すばかりで容量を得なかったが、洗濯場の混乱は余計に広がり、自分の夫は大丈夫なのか、あるいは息子の無事を確かめる為に散り散りになって家路に着いたようである。


「お父さんやゼリンのこと、何か聞いたりしてないだろうね?」

「誰も来ていないわ。お婆ちゃんも一緒だったから間違いない」

「ラズの言う通りだ。ここにはそんな話はまだ何も来てないよ」

「そう…5人くらいってことだけは聞いたんだけど、後はみんな自分の家のことで大騒ぎになったから直接確認しに行けなかったの。何も来てないなら大丈夫よね…」

「大丈夫よ…何があったか知らないけど、お父さんもゼリンも今日は都に行く日でもないし、会議所にいるんじゃないかしら。私、会いに行って来ようか?」

「やめておくれ、ラズ。死んだ男たちがどこでどうなったのかも何も知らないんだ。村の中と言っても安心できないよ。とにかく今は家にいよう。待つしかできないわ」


そう言って祈るように顔を伏せる母の肩を抱いて、まだ何が起きたか理解しきれていないけど怯える母の姿に何かを感じている妹のこともラズは抱き寄せた。自分は残酷な人間かもしれないと少し胸が痛んだけれど、こうなることはわかっていたことだ。昼は昼の食事を食べに下の弟が学舎から一度帰ってくるはずだ。その後は母に懇願される形で、きっと弟も家にいることになるだろう。こんな事態だというのに、冷静でいられるなんておかしいだろうか、などと思いながら、母と妹を座らせてからラズは昼食の支度に取り掛かる。

「みんな無事に帰って来るわよ。そのために家にいる私たちができることはいつも通りに日々を進めることだと思うの。だからお母さんもお昼作ったら、ちゃんと食べてね」

ラズの言葉に黙ったままだが頷いた母の姿を見て、自分は誠実な人間なのかとラズはひたすらに自問した。

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