代償.1
神殿を後にしたティファンは落ち着いた足取りで泉へと向かった。廃墟から聞こえる音と気配は、もう何もない。
人喰いの化物は討伐されたのである。古い神殿の周りは、土に砂を巻いたような地面で、足跡が残っているのが夜でも目を凝らせばわかった。
神殿へと向かう足跡が複数人分。そして今、神殿から帰る自分のものが1つ。
そこでティファンは気付いた。男にしてはやや小振りな足跡が自分よりも先に神殿を後にしていることに。
まずいかもしれない。取り急ぎ泉へと向かう。誰か伝令がいた可能性があるのだ。だとしたらすぐにでも此処を発たなければ厄介なことになる。
しかし幾ら闘い慣れしているとはいえ、この状態で水も飲まずに旅立つのは無謀だとティファンは分かっていたので、仕方なしに足早に先ほどの場所へ向かう。
あそこなら見晴らしも悪くない。休息を取りながらも、夜の移動者達が来たとして、すぐに気づくこともできる。
しかし、おかしなことに自分より先に神殿を後にした足跡は、真っ直ぐと泉へと伸びていた。伝令であれば寄り道などせずに真っ直ぐ村へといくだろう。だとしたら、意図しない目撃者がいたのだろうか。
ティファンはそれが無関係な人間であることを祈った。自分は殺戮を望むような歪んだ性格の持ち主では決してないと知っていたからである。悪意のない目撃者であれば、少し脅かすだけで傷つけることなく追い払うことができるだろう。
足跡は泉へと真っ直ぐ伸びていく。泉の側には屈めば子供なら身を隠せそうな程の、頼りない繁みがあるばかりだ。目撃者はやはり大人の男ではなさそうである。その事実にティファンは安堵した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます