正体.2

「どうした。人喰いの化物とやらは、人間並みに道具も使うというのか?かかってこい。全員返り討ちにしてやるさ。私が鎧も装備も何もないのは必要がないからだ。当たらなければ、攻撃に耐える必要などない」


 神殿は静けさを取り戻した。いや、男たちの荒い息遣いが聞こえる。ティファンがここに来た当初は聞こえなかったはずの音。


 本当のところ、ティファンには整った呼吸の音でさえも全て聞こえていて、神殿に入る前から大まかな敵の目安はついていたのだが、増えた情報はそれらを全て裏付けしてくれる。


 1人ではない。何人もの人間が、息を殺そうとしてそれをできていない音。その気配だけでティファンには敵となる村人たち全員の数と場所が分かってしまった。

 ただそれだけのことで、この軽装の旅人は、己が目的とした討伐すべき人喰いの化物の全てを見抜いた。それほどまでにティファンは闘いに慣れていたのである。



「親切に場所を教えてくれるのは最初だけだったか。まあいい。抑え切れていない息遣いで、そちらの動きは大体把握できた。来ないならこちらから出向くまでだ」


 それから神殿には無駄な音が響くことはなかった。未だかつてない恐ろしい討伐者を目の前にして、ただ身を隠してやり過ごすしか術を持たなくなった男たちが、音もなく1人の旅人の手で着実に討伐されるばかりであった。

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