正体.1

 廃墟の神殿は不気味なくらいに静まりかえっている。その様は本当に人喰いの化物などいるのだろうかと疑わしいほどであった。


 神殿の入口から中を覗き込むと、崩れた壁や天井から月明かりが差し込んで、中は幸い外と同じくらい明るかった。


 平屋造のこの神殿に化物が隠れられる場所など皆目見当もつかない。ティファンは昼間に聞き込んで得た情報から推測した化物の正体に確信を持った。


 何も恐れなどないように、わざと靴の音を響かせて石の床を鳴らし、神殿の真ん中へと一気に歩みを進めた。神殿の床に描かれている古びて掻き消えそうになった数百年は昔のの魔法陣の中央に立った時、風を斬り裂く音と同時に何かが壁から飛んできた。


 それを予測していたティファンはその場にしゃがむことでそれを回避した。飛んで行った何かは、部屋の隅に押しやるように片付けられていた数日前の討伐隊の誰かの遺体に突き刺さって止まった。


「月が真上にあるから、影の位置で場所の予測はできなかった。だが先手を打ってくれたおかげで、手に取るようにわかったよ」


 ティファンの声が神殿の石壁に反響し終わる頃、男の呻き声が聞こえて、屋根の上から一つの体が落ちてきた。それは村の男たちが着ている麻布で作られた簡易な平服を身に纏った体。

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