旅人.2
その言い回しにカチンときたラズはバケツを地面に置いて男の方へと振り返って目を見て言い放った。
「侮辱していますか?」
「違う。ただ、今の言い回しはよくなかった。すまない。疑うことを知らない純粋な子かと思ったんだよ」
「純粋な子じゃなくて申し訳ないわ。さあ早く退いてちょうだい。私、家族の朝食を作らなければいけないの」
「え?まさか君、結婚しているのか?」
「してないわよ。なんでそう思ったの?」
「家族の朝食を作るって言うから」
この男と話していたらいつまで経っても何もできやしない、と思ったラズはバケツに水を満たしながら話を続けた。
「この歳になったら娘だろうと当たり前よ。この辺りはみんなそう。ずっと昔からよ。私のお婆ちゃんもそうだったんですって。14、5になる頃には家事ができて当たり前。その後は家の仕事を手伝いながら、父親がいつか決める結婚相手の妻になって、また家族のために朝食を作るんでしょうね」
「驚いたな。まだそんな古い慣習にとらわれた場所があったのか」
「あなたの世界が狭いのよ。私の世界の全てがここにあるわ。そしてそれは今、私が言った理屈で動いてるの」
「僕の世界が狭い、ね。言ってくれるじゃないか。僕の一族は12になったら男はみんな旅に出て」
「狭いじゃない。12になったら男は旅に出るなんて決まりがあるなんて。私の世界では少なくとも12歳でしなければいけないことなんてないわ。大人になるために必要なことが、なんとなく決められていて、その通りに進むことを周りが期待してるのがわかるから、それに従って楽に生きる自由がある」
「従う自由なんて斬新だな」
「ざんしん?ってどういうこと?」
「目新しいってことだよ。口が達者なお嬢さんは意外と国語は苦手だったかな?」
「国語って何?私、学舎に行ったことがないの。ここでは女はみんなそうよ。だから字も読めないし、あなたが使ったみたいな難しい言葉もわからないの」
「…そうか、すまない。何度も言うけど、侮辱するとかそういうつもりは」
「大丈夫よ。知らなかったんだもの。仕方ないわ。別に怒ってもいない。安心して」
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