特需.4

 それからの村は特に大きな変化もなく、季節が1つ終わるほどの時間が過ぎた。


 それでも未だ人喰いは討伐されていなかったし、時々思い出したように犠牲は出て、その都度村へと屈強な男たちが集まり、段々と村の中でも昔から村だった場所と、そうじゃなく後付けでできたような場所とで格差じみたものが見受けられるようになったが、昔から続く隊商の一員の一家の娘であるラズにはなにも変わることのない、噂話だけがひっきりなしに変わること以外は、なにも変化のない日常を送っていた。


 減れば減っただけ集まってくる男たちだけが新鮮な存在であった。


 しかし、死ぬかもしれないというのに、どうしてこんなに男たちは集まってくるのだろうか。

 彼らは一体なにを求めてこの辺境の村に来るのだろうか。


 最初は人食い狩り討伐という称号であったかもしれないが、段々とここに居つくばかりの男たちの数が決して少なくないのがわかってくると、布張りの簡素な酒場の酌婦や、酒を目当てに滞在しているような者もいるのではないか。

 そんなことをたまに考えては、それは考えるべきことじゃないと頭を振って、ラズは刺繍や機織に没頭した。


 下女を買うなんて話も結局は酔っぱらった父の戯言であったようで、幸いにもラズの家には火種が持ち込まれることもなく、今まで通りに母と食事の支度もして、日々を過ごすことができていた。


 だから今夜も明日も同じような一日があるものだと思い込んでいたし、刺繍の羽模様が段々と場数を踏んだだけ上手くなって、複雑で美しくなったことに我ながら満足しながらラズは眠りについた。


 家族は皆とうに寝ついていたので、静かに着替えて妹のことを踏まないように寝台に上がる。遠くからはまだ男たちの笑い声と、宴に興じる声が聞こえたが、少し冷え始めた夜風に備えて窓にかけたお手製の鳥の刺繍入りのカーテンのおかげで、ラズの耳には不快な音はほとんど入って来なかった。風が強くて布のなびく音がパタパタと彼女の夢の中までを満たしていった。

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