特需.1

 人食い狩り討滅隊の全滅の噂は、矢のような速さで駆け抜けていった。きっと始めに人喰いが出たことが噂になった時よりも遥かに速かったと思う。


 だってあの時は出発した隊商が都に持ち込んだ噂話だったし、でも今度は軍人の死ということもあって、わざわざ伝令の馬が駆けて行ったのだと、市場では噂になっていたから。


「こんな話が都の官吏の耳に入ったら大丈夫かしら?人喰いの討伐になんて手を貸してくれなくなるんじゃない?」

「まさか。国の威信をかけて逆に報復してくれるさ。怖がる必要はないって、うちの旦那は言っていたよ」


 香辛料を売る恰幅の良い女が、買い物客の女とそんな会話を繰り広げている。

「ラズの所はどう?お父さんはなんて言ってる?」

香辛料売りに声をかけられる。


「うちは、まだお父さん帰って来てないんです。2日前に都に行ったばかりだから。でも野草摘みはしなくていいと言われました。市場で買っていいと。なるべく村から出るなと言われています」

「やっぱり。嫁入り前の美人の娘が心配なんだね」


「隊商の人でさえ警戒してるのかい。こりゃあますます都から来る討伐のお人方に期待するしかないねぇ…まあ、それより何かいるものがあったんじゃないの?」

「あっ、香辛料は今はうち大丈夫です。また近いうちに買わせていただきますね」

「そうかい。じゃあまたね」

「失礼します」


 やり手の香辛料売りは、あれだけ人喰いの話で怖がっているのかと見せかけて最後にちゃっかり商売を挟んでくるのだから、やはり商人というものは好きになれないな、と商人の娘でありながらもラズは思った。

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