討滅.3
翌朝の村は大騒ぎであった。昨日の夜に人喰いの討伐に向かった男たちが誰一人朝になっても戻らないので、村の者が様子を見に行ったところ、皆朽ち果てた神殿の側で死んでいたのだという。
人喰いの噂が出てから大勢の討伐隊が村に訪れていたが、死人が出たのは初めてのことであった。それも全滅だなんて。
「怖いね、おばあちゃん。都の軍人さんたちだったみたいよ。強かったろうに。やっぱり人喰いって、そんなに恐ろしいのかしら」
「人を喰うんだからそりゃ恐ろしいよ」
「そりゃそうね。どうしよう。これからは野草摘みに行くのも控えた方がいいかな。市場で売ってる人もいるし。」
「今までは節約のために摘んで来いって言われてたのかい?」
「節約のためとは言われてなかったけど、自分で手に入れられるものを買う必要ないって、お父さんが。でも最近じゃ機織に忙しくて、市場で買って来ても許してくれるの。今度聞いてみようかしら」
「命が一番大事さ。そうしな」
そうやってみんな自分でしてたことをしなくなったり、できなくなったりして、お金を払って人にしてもらうようになる。それは正しいことなんだと上の弟のゼリンが前に熱弁していたのを思い出す。
学舎にまだ通っていた頃だったが、そんなゼリンの頭を父は撫でていたから、商人としては正解だったのだろう。
ラズには代わりに誰かにその一番危ないことや面倒なことを引き受けさせている気がして、その話を聞いた時は気が進まなかったものだが、自身が「忙しい」という状態に置かれているらしい最近では、そんなことまで考える余裕はないというのもまた事実であるなと感じていた。
「でも不思議ね。人喰いってことは、人を食べるんでしょう?なのに何でみんな亡くなったとわかったのかしら。逃げた人だっていたかもしれないのに」
思いつきで呟いて、ああ、多分これはまた厄介なことを私は言ったのだとわかって機織の手を止める。
やはり自分は刺繍をする方が好きだ。機織も嫌いじゃないけど、別のことを考えてしまって、しかもそれが人に良く思われない考えだったりするものだから、苦手である。
幸いにも部屋にいたのは祖母だけだったので、何も聞こえていないのか、聞こえていない振りをしてくれているのか、返事はなかったので、それ以上気を巡らせる必要は無くなったのだけれども。
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