機織歌.2
それが村に伝わる機織歌だと祖母から教えられて、ラズはその時初めて知った。女たちだけが知る、口伝えられた文字のない伝言。誰に宛てたものかもわからないし、古い言葉も混ざっていて、ラズには半分も意味がわかっていなかったのだけれど。
最果ての詩(うた)聴こえる
最果ての地で魔人がひとり
鳴らしてる笛の音聴こえる
最果ての地で誰かを待って
同じ歌詞を永遠に繰り返す、単純作業にはちょうどいい歌である。「最果て」とは何を表しているのかラズには分からなかったし、「魔人」とは何かも知らなかった。
歌が聴こえて、ひとりで居る人がいて、笛の音がして、誰かを待っている。少し哀愁を含んだメロディだったが、陰鬱にならずに済むのは、機織という単純作業とセットで行うからなのか。
しかし、最初にこの歌を作った人は一体どんな人だったのだろうか。祖母でさえ、その母や祖母から習ったというのだから、もう100年は昔のものだろう。その頃に字も読めないはずの女たちが、布を織りながら、どうしてこんな歌を作ることができたのだろうか。
「あっ」
また余計なことを考えてしまったおかげで、糸を通す順番を間違えてしまった。ここだけほどいて、またやり直さなければならない。やはり考えるなんてことは、あまりよろしくないことであるのに、それを止めることのできない自分の性格が分かってきたラズは、なんだか将来に少し不安を覚えてしまった。部屋の中には祖母の空気のような声で低く歌われる機織歌と、祖母の糸紡ぎを見様見真似で手伝う妹だけが残っていた。
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