機織歌.1

 しかし同時にラズはある違和感を感じていた。集まって来た男たちは一向に減る様子がないのである。


 陽が登れば例の神殿跡地にまで村の男衆の案内で向かっているようだが、夕方には皆が無傷で帰って来ていた。


 死人が出ないのはいいことだが、人喰いの化物なんてのが住み着いている場所に向かって、どうしてこうも無事でいられるのかラズは疑問で仕方がなかった。


 けれどこの疑問は口にしてはならないものであることも何となく分かっていたから、彼女はいつものように朝焼けで目覚めて飯を炊き、そして普段より多めに機織を動かし続けた。考えてはいけないことが頭に浮かんできそうになったときは、幼い頃、母や祖母の機織を眺めていた時、無意識のうちにか彼女たちが鼻歌で口ずさんでいたメロディを真似してみた。


「ラズ、どこでそれを知ったんだい?」

ラズの鼻歌を聞きつけた祖母が、いつの間にか後ろに立っていて尋ねてきた。相変わらずこの人は存在感が薄い。本当に空気のような人だと思いながら


「私が小さい時にお母さんやお祖母ちゃんの機織を見てたでしょう?その時、2人とも歌ってたのよ。2人とも自分でも気付いてないんじゃないかってくらい自然にね」

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