人喰いの噂.2

 祖母の口上に父と母はうんざりした顔を一瞬見せたが、一瞬にして、そんなことは一度も思ったことも無いような表情に変えて


「まあ、お義母様。そうだったんですか?」

「ああ。とうとう噂が国王のいる都まで届いてね。討伐の為に軍人やら武人が大勢来て、村の近くで野営してたよ。あの頃は景気が良いと村の大人たちは上機嫌だった。自分たちの住む場所のすぐ傍に人喰いがいるっていうのに、なんであんな笑ってられたのか、子供だった私には分からなかったけどもね」


「母さん。そんな古い話はいいよ。それより、どうもまた同じことが起こりそうだ。お前たちも気付いていたかもしれないが、この噂も実は数日前から存在したものだ。その頃に噂を乗せて旅立った隊商が、都でこの話を触れて周るかもしれない。そうなったら、化物狩りに人が大勢来るかもしれないな」


「まあ、じゃあその時に何かしなければいけないのかしら」

「別に特段の気を遣う必要はあるまい。ただ、客にもなり得る人物たちだ。飲み食いできるものや、あって困らないものは多目に用意して、上手く売るなりすれば金も稼げるし、恩を着せることもできるかもな」


「化物を狩りに来てくれる人に恩を着せれるなんてことあるの?」

父母の会話に、ふと浮かんでしまった疑問を口にしてからラズはハッとした。だがもう遅い。


「ラズ、お前は長女だが、女だ。商売のことなど何も知らないだろう。私やゼリンに任せて、機織りの量を明日から増やしておけばそれでいいんだ」

名指しされた上の弟はニヤニヤしながらラズを見ている。下の弟は相変わらず不機嫌そうに食を進めているだけだ。


「はい。すみません、お父さん」

「布の目は少し荒くてもいいよ。無骨な男たちが来るんだから、市場の女みたいに眼を皿のようにして縫い目の粗を探したりしないだろうから」


 母が言った言葉で家族が笑い、丸く収まった夕食にラズは胸を撫で下ろした。時々自分は余計な言葉を言いすぎる。余計じゃないと思っているから口にしてしまうのだけれど、それがこの小さな村では誰にもわかってもらえないことはラズはとうの昔に知っていた。

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