いつもの朝.2

 井戸で汲んだ水を家の台所へと運び、起き出してきた母に朝食に必要な食材を言いつけられて、それを採りに行く道すがらで村の広場を通った。


 幾人かの女達が、手に持った鉢や袋の中に木の実や香辛料を入れて、物々交換を呼びかけている。いつもの風景だ。


 頼まれた野草を多めに採って、帰りに此処で卵とでも替えて貰おうと思いながら村はずれへと向かう。そんなラズの横に広場の掲示板があって、数枚のビラが貼られていたが、字の読めない彼女はそれを見ようともしなかった。


 朝食ができる頃に、残りの家族が起きてくる。台所では母とラズの2人が忙しなく動き回り、7人家族の朝食を用意した。父と母がいて、父の母である祖母。長女であるラズ、弟が2人と、まだ小さな妹。それがラズの家族であった。


 父と上の弟は何やら話しながら朝食を食べている。仕事のことだろう。ラズにはさっぱり中身がわからない。下の弟は学び舎に行かなければいけないのに、不機嫌そうに干し肉を咀嚼し続けている。


 その真向かいに座る祖母が咎めるような目で下の弟を見ているが、注意することはない。女である彼女が、いくら孫とはいえ、やがて外に仕事へ行くようになる男である彼に妙なことを口走れば、父の機嫌は悪くなる。


 そうすれば家中の空気が重くなることを知っているから彼女は何も言わないのだ。下の妹は穀物を水で溶いたスープを両手で器を持って一生懸命飲み干していく。時々横から溢れそうになっているのをラズが注意を促してやりながら、家族の朝食は進んでいく。


 母は給仕の合間に器用に食べているのか、あまり物を口にしているのを見かけないが、自分もやがて嫁いだら母のようにしなければいけないのかと思うと、少し飲み込むのが上手くいかなかったせいか咽せてしまった。


 ラズが咳き込むのを心配して声をかけたのは幼い妹だけで、あとは各々が自分のために食べ物を飲み下していく。相変わらず祖母だけはよくわからない目線でラズのことを見ていた。

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