金剛石の章_ⅴ

その日の夜。


結局、僕の屋敷へミルドとリリヤは泊まることとなり、

ならば、とその後客人用の宿泊部屋へと案内すると、泊まる気満々であった2人は早速荷解きをした。

そしてそれらも済んだ今、これから晩餐だという時間だった。


「ルノ様、ミルド様、リリヤ様、晩餐の支度が整いました」


「あぁ、分かった。皆、行こう」

.

.

.

「で、昼の話なのだけれど」


「うん、そうだねぇ」


後ろで昼の議論の続きを僕へ言うミルドとリリヤ。

そうだ、昼は僕が倒れてしまったせいで、

話が進んでいなかったのだ。


「あぁ、あの事件後特有の抜け殻のような態度が…魔法である可能性の話だったか」


魔法。

僕らは使えないが、この時代この世界だ。

ありえない話ではない。

現に僕らを動かす仕組みもそれと近い。


しかし、魔法を使うには大掛かりな準備が必要な事が多く、

呪いより強力である記憶操作などの魔法であれば、準備に長くかかる。


そうなれば、

こうも頻繁に誘拐をしては記憶操作を行う事は不可能だ。


「可能性はあるが、頻度を考えると薄れるな」


「だよねぇ、手早く出来るものでは無いもの」


「僕も貴方達と同意見です」


なら、なぜ抜け殻なのか。

魔法以外で抜け殻にする方法は

もう1つある。


それを見た者を催眠にかけてしまえばいい。


簡単な話だ。

心理に長けている者なら造作もないだろう。


ミルドのように人の真意を見抜けたり、

リリヤのように人を動かせるのなら

尚のこと簡単かもしれない。


ふとそう思い、2人の方をチラリと見た。

目が合ったミルドが少し挑発的な笑みを見せつつ、カツカツと近寄ってくる。


「ねぇ〜?ルノ君?今僕らを疑っていなかったかい?」


「え、そうなの?ルノ」


ミルドから衝撃的な言葉を受けたリリヤも、

少し目を開いて少し怪訝そうにこちらを伺う。

違う、そういう訳じゃない。


「疑ってなどいない。2人とも何をしていたかなど予定を見ればすぐに分かる。


ただ」


「ただ?」


ミルドとリリヤが被せて首を傾げる。

お前達はこういう時ばかり結託して…

そう思いながら言葉を続けた。


「ただ、お前達のような長所を持つ者が犯人なら

今回の件は一筋縄では行かないなと


気を引き締めていただけだ」


言い終わると同時に、2人とも

なんだ

と言うかのように顔がいつもの緩んだ顔へと戻る。

怪訝そうに潜めていた眉が八の字になり、

笑っていても笑っていなかった目が弧を描く。


「確かに僕達のような心理に長けている人が犯人であるなら、難しいね」


リリヤが顎に手を当てながら、眠そうな顔を斜めに上げ、照明を顔半分に受ける。

ミルドもうーんと唸る声を出して、

毛ずくろいをしている猫のように目を細めて言う。


「それならば本当に、本当に大変な事件だ。

うーーん、犬のように好物を掲げると走って来るような人物が犯人ならどんなに…」


はぁ、と頭を抱えてため息を大袈裟につく。

確かに、犬のように順応な人物が犯人であればどんなに楽だったろうか。

もしくは、直ぐにバレるようなやらかしを残す人物なら。


そうしてまだしばらくの間

食堂へ向かいながら犯人の人物像の議論を話していたが、

結局話は、振り出しに戻ってしまった。


「結局戻ったねぇ、ルノ」


「どうしようもないよ。件の話は情報や決め手が余りにも少ないもの」


「もう一度、情報を集め直すか」


「そうしようか」


と話に区切りが着いたところで、ちょうど食堂に辿り着いた。

朝も通ったこの道。

いつも通う度に長すぎると退屈に感じていたはずなのに、

ミルドとリリヤがいた今日は、

話しながら通ったからかあっという間の距離に感じられた。


「さて、晩餐は明るくいこう」


「ふふ、ルノが一番守らなければならない事だね?」


「僕は…紅茶を飲んでいられるならそれで」


「うるさいぞミルド。僕は外交は得意だ。

それとリリヤ、一応はお客人扱いだ。ちゃんと食べてくれ」


先程までの少しばかり真剣に見えた表情は何処へやら、ミルドは早速飄々と笑いながら服装を正している。


リリヤは小さくあくびをしながら、食堂の扉の上を飾る照明へと顔を向けて、

えぇと。と食事のマナーを思い出していた。


そんな2人を後目に、僕らを先導してくれていたシルヴィが扉を開けた。


「あ」


チカチカと壊れかけているのを知らせる照明に気付いた、リリヤの声と同時に。


.

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