【特別編】学校一の美少女は書籍を熱く語る

※本編とは一切関係ありません。書籍発売記念として書かせてもらいました。


♦︎♦︎♦︎


 いつものように斎藤の家で本を読んでいると、隣に座っていた斎藤がポンポンと俺の肩を軽くたたいた。


「どうした?」


 本から顔を上げて隣の斎藤を見る。目が合うと斎藤は得意げにして、袋から本を取り出した。


「見てください。田中くん。どうやら私たちが本になるらしいですよ。私は登場人物の特権ということで、見本誌をもらっちゃいました!」


「は? 俺たちが本になるのか?」


「そうですよ。本好きとしてこれは嬉しいんじゃないですか?」


「いや、読むのと出るのは別だろ……」


 読書が好きだからって本に出たいとは思わない。というか、そもそもにそんな夢を持つ奴の方が少ない。


「まあまあ、いいじゃないですか。これで私たちの知名度がさらに上がりますよ」


 斎藤は嬉しいようで、瞳がきらきらと輝いてる。

 こいつは気付いているのだろうか?自分たちが本になる意味を。本として出版されるにあたって一番危惧していることを指摘する。


「いや、それって俺たちのその……いちゃいちゃ的なのが知られるってことだからな?」


「そ、それは言っちゃだめです!」


 分かりやすく頬を赤らめて、慌てたようにしーっと柔らかそうな唇に立てた人差し指を当てている。どうやら気付いてはいたみたいだ。


「い、一巻はそこまでいちゃつきませんし、まだセーフなはずです」


「ああ、最初のころは確かに斎藤の俺への態度は冷たかったもんな」


「当たり前です。男性なんて警戒する対象でしかありませんでしたから」


「今はどうなんだ?」


「今は……信頼できる本好きな人、といった感じでしょうか?」


「そりゃあ、どうも」


 斎藤の認識が俺が思っていたものと相違がなかったことに安堵しつつ、軽く頭を下げる。すると斎藤は思い出したようにポンと軽く握った右手でもう片方の広げた左手を叩いた。


「そういえば! 田中くんが本好きなのは変わらないですが、書籍版の田中くんはどうやらさらに悪化しているみたいですよ?」


「そ、そうなのか?」


 『悪化』という言葉に心配になる。そんなにひどいのだろうか?


「本好きが悪化して本オタクみたいになっています」


「おい、悪化っていうな。悪化って。いいことだろ。本への熱意がさらにパワーアップしているんだから」


 不満をのせて斎藤を見れば、斎藤は呆れたようにため息を吐いた。


「はぁ。パワーアップと呼べる田中くんが羨ましいです」


「やめろ。その残念な目で俺を見るんじゃない」


 可哀想なものを見る目で見てくる斎藤の視線から逃れるため顔を逸らす。お、俺、主人公だし、そこまで酷くはならないはず。……なってないよな?


「まあ、田中くんが気にしていないならいいです。ちょっと残念さが増しているだけですから、気にする必要はないかもしれませんね」


「おい? 今聞き捨てならないことが聞こえたんだけど?」


「さて、あと変わっているところはですね……」


 斎藤は分かりやすく無視して話を進める。ちょっと、斎藤さん? だんだんと不安になってきましたよ? 


「ああ、一番大きく変わっているところがありました」


「おう、なんだ?」


「一ノ瀬さんです。どうやら、最初から登場するみたいですよ」


「え? あいつが?」


 おいおい、どうなってやがる。あいつが最初から登場とか嫌な気しかしない。思わず口元が引きつってしまった。


「はい。どうやら、最初から田中くんの友人となっているみたいですね」


「勘弁してくれよ。正気か、作者?」


 嫌な奴ではないことは分かっているが、最初から友人とか悪い冗談にしか思えない。さんざんいじられる展開がありありと見える。


「作者曰く、「ばっちり田中がからかわれるから安心してくれ」とのことです」


「全然安心できないんだが? むしろどこに安心できる要素があった?」


 予想通りの言葉にもうため息しか出てこない。もう一人の俺よ、頑張ってくれ。

 心の中でひっそり手を合わせていると、斎藤はポケットからメモ用紙を取り出して「あとは……」と確認している。


「あとは、私視点の……ってなしなし!今のはなんでもないです。大体そのぐらいみたいですね」


「いや、なんだよ。気になるじゃん」


 慌てたように首を振る斎藤はあまりに挙動不審だ。彼女の手元の握りしめてクシャっとなったメモ用紙が目に入った。思わずひょいっと奪い取る。


「あ、ちょっと!」


 取り返しに来る斎藤に背中を向けて、メモを開く。そこにはさっきまで斎藤が説明していた内容が書いてあり、その下に『斎藤視点の話が書き下ろしで五話分』と書いてあった。


「ああ、そういうことか。斎藤側からの話もあるのな。ちょっとその本貸してくれ」


「ほ、ほら。そう言うと思ったから隠したんです。絶対に貸しませんからね?」


 ぎゅっと力を込めて本を胸に抱き、取られまいと警戒してくる。上目遣いに軽く睨んでくる斎藤は、少し猫っぽく見えた。安心させようと「分かったから。見ないよ」と説得したところで気付く。


「待て。ということはほとんどは俺視点の話ってことだよな。それってつまり……」


「ふふふ、気付いてしまいましたか。そうです。私は田中くんがどう感じてどこで私のことを意識していたのか丸分かりなんです」


 口角を上げていたずらっぽい笑みを浮かべる斎藤。目を薄く細め、クスっと微笑んだその表情は小悪魔のような少し色っぽさがあった。


「う、嘘だろ!? じゃあ、この前猫カフェに行った時の斎藤の猫の声真似が可愛くて動画に収めておきたかったと思っていることも、ツインテールの斎藤が意外と可愛くてまた見たいと思っていることもばれているのか!?」


「え!? そ、そんなこと思っていたんですか!?」


 顔を真っ赤に染めて上擦った声を上げる斎藤。その反応に自爆したことを察した。


「えっと、もしかして書いてなかった……?」


「あ、当たり前です。それは最近でしょう? 一巻なんですからもっと最初の方だけです」


「お、おう、そうか……」


 恥ずかしそうにか細い声で説明する斎藤の姿から、自分がどれだけのことを言ったのか自覚する。うん、今すぐ死にたい……。

 なんと言っていいものか、言葉が見つからず黙っていると、斎藤がおずおずとこちらを上目遣いに窺ってくる。


「そ、その声真似は恥ずかしいのであれですが、ツインテールくらいなら、いいですよ?」


「お、おう。じゃ、じゃあ、お願いします」


 自分の顔が熱いことを自覚しながら頭を下げた。


♦︎♦︎♦︎


 いかがでしたでしょうか?


 おそらくですが、普段よりもコミカルな感じの印象を受けたと思います。書籍では今回の話のように2人のコミカルな会話が所々に入っており、そんな書籍の雰囲気を感じてもらえたかなと思います。

 あと、話の中で触れてはいませんでしたが、もちろんバイトの話や2人の新たなエピソードも沢山追加されています。

 今回の話で結構変わってるじゃん。少しでも面白そうと思った方は、7月1日から発売中なので、ぜひ購入を検討して貰えると嬉しいです(*・ω・)*_ _)ペコリ


 来週から本編に戻ります。


 

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