第92話 学校一の美少女の事前調査
「女子で協力関係…………。は!そういうこと!?」
またしても驚きの声を上げる斎藤。目と口を大きく開けて、広げた右手で口元を隠すようにしている。
「そんなに驚いてどうしたんだ?」
一瞬、斎藤の呟きから俺と柊さんの関係について考えているのかと思ったが、それはあり得ない。斎藤は俺がバイトをしていることを知らないはずだし、斎藤に柊さんに相談していることを話したこともない。それで俺と柊さんの関係性を考えることは起こらないだろう。
だがそうすると斎藤は何に驚いたのだろうか?
「え!?そ、それはその……」
「ん?」
「な、なんでもないです!」
「いや、何でもないわけがないだろ。斎藤がそれだけ驚くなんて普通に気になるわ」
「ダメです。秘密です。私の頑張りが重要なので、これは私の問題ですから」
「……そうか」
頑なに口を閉ざされ、それ以上追及するのを諦める。流石に無理強いに聞くのは躊躇われた。
だが、斎藤のあの反応の感じ、さっきの一ノ瀬と俺が恋仲になる勘違いをした時と似ているので、また妙な勘違いをされていないか心配だ。もしまた変な勘違いをしているなら、すぐに訂正しないと。
だが、今思い返しても特に勘違いするようなところはないように思う。ただ斎藤の勘違いを訂正していただけなのだから、他の勘違いを生む要素はないはず。
(まあ、変な勘違いをされていないならいいか)
斎藤は自分の問題だと言っていたし、俺に関することでないなら、これ以上気にしても仕方ないだろう。そう思い、まだ気になりはしたものの頭の片隅に追いやった。
ほっと小さく息を吐いて隣でどこか気合を入れた様子の斎藤を眺める。何かを考えているのか、少し真剣な表情だ。視線を地面へと向けていたが、ふとこちらに透る綺麗な瞳を向けてきた。
「あの……早速ですが、田中君は甘いものは苦手ですか?」
「いや?普通に好きだぞ。一般的な男子よりは甘いものは好きだと思うな。また、どうしたんだ、突然?」
「いえ、少し気になったので」
質問するとそれだけ言ってプイっとそっぽを向いてしまう。
「? それも斎藤の頑張らないといけないことに関することなのか?」
「えっと、はい、そうですね……」
どこか言いにくそうにしながらもこくりと頷く斎藤。その頬はうっすら桜色に色づいている。唐突な質問、そして謎に恥じらう斎藤の様子が不可解で一瞬首を傾げるが、その理由はすぐに分かった。
(ああ、バレンタインか)
今は二月の頭なのであと半月ないくらい。今まで縁のないイベントだったので気にもしなかったが、確かに女子にとって頑張る日だ。多分だが俺にチョコを渡そうと考えてくれているのだろう。
今までバレンタインで浮かれる奴の気持ちが理解できなかったが、確かにこう、クるものがある。
「苦手なお菓子とかありますか?」
「いや、特にないな」
「フルーツジャムとかドライフルーツとか苦手だったりししますか?」
「全然。むしろ果物系はなんでも好きだぞ」
「そうですか……」
ふむ、と顎に手を当てて真剣な表情で考えている斎藤。だがすぐにはっと何かを思い出したようににこっちを見た。
「言っておきますけど、本当にただの質問ですからね?ほかに意図なんて一切ありませんから」
「……わかってる。ただ気になっただけだろ?」
「そうです。あまり田中君の好みとか知らなかったので気になっただけです」
気になっただけの質問にしてはやけに具体的すぎるし、多いけどな。そう思いつつも心のうちにしまい込んで、その後も沢山質問に答え続けた。
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