第80話 学校一の美少女と猫カフェ
「では、一時間でよろしいでしょうか?」
「はい」
「お時間が近くになりましたら、声をかけさせていただきますのでごゆっくりお楽しみください」
無事受付を済ませ終え、ほっと息を吐きながら斎藤と向き合う。
「終わりましたか?」
「ああ、終わったぞ。待たせたな」
「いえ、大丈夫ですよ。終わったなら早速行きましょう」
「お、おう」
もはや猫に気を取られ過ぎているせいか、斎藤は一切抵抗なく手をつなぎ、ぐいぐいと部屋へとひっぱられる。急な無意識の積極さに思わずドギマギしながら、部屋の中へと入った。
「わぁ!沢山いますよ、田中くん。どうしましょう。どの子から近づいたらいいんでしょうか?」
部屋に入った途端、嬉しそうにきょろきょろと部屋の中の猫たちに視線を注いでいく。きらきらと瞳をを輝かせる姿は無邪気で可愛らしい。年相応のあどけない雰囲気につい口元が緩む。
「時間はまだたくさんあるし、こっちの一番近い猫さんからにしようぜ」
「あ、いいですね」
右手一番手前のキャットタワーで寝ている猫を指さすと、斎藤は賛同するようにこくりと頷いた。
驚かさないようにゆっくりと近づく。目の前まで近づくと寝ていた猫は気配を察したのか目を開けてこっちを向いた。
「猫さーん。起きたんですか?」
アーモンド色の丸い瞳と目が合うと、斎藤はいつもより高い可愛がるような声で小さく囁いた。それに答えるかのように「ニャー」と猫が鳴く。
「田中くん、田中くん!猫さんが答えてくれました!にゃーって答えてくれましたよ」
まさか鳴き声を返されると思ってなかったのか、こっちをむいて嬉しそうにくいくいと袖を引いて教えてくる。どこか興奮気味な斎藤の頬がうっすらと赤みを帯びているのが目に入った。
「そうか、よかったな。もしかしたら、猫語を使って話したらもっと会話できるかもしれないぞ」
「そ、そんなことしません。絶対からかうつもりでしょう。田中くんの考えていることなんて分かっているんですから」
猫に「にゃーにゃー」と話しかけていたあの時の姿がまた見たくて提案してみると、斎藤は頰を朱に染めて焦ったように声を上擦らせる。そのまま早口で言い切ると、ぷいっとそっぽを向いた。
「いいのか?もう一回返事してもらえるかもしれないぞ?」
やはり斎藤の猫真似姿は可愛く、もう一度見たかったのでそう声をかけると、分かりやすく視線をうろうろと彷徨わせ始めた。
「そ、そうでしょうか……?猫の真似をしたら、答えてもらえますかね?」
上目遣いにこちらの様子を窺うようにこちらを見上げて尋ねてくる。その細い声にはどこか期待するような雰囲気があった。
「分からんがやってみる価値はあると思うぞ」
「……わかりました」
猫に通じるとは思わないが、必死に猫の真似をする斎藤の姿は見たいので、試みるように促してやると、斎藤はほんのりと頰を染めながらもこくりと頷いて、猫と向き合った。
「にゃ、にゃぁ」
鳴き真似をしつつ、ちらっと一瞬こっちに視線を向ける。だが、すぐにまた猫と向かい合う。
そのまま声を僅かに上擦らせ、恥ずかしながらも何度かにゃーと鳴き真似をして猫に話しかけ続けた。
その斎藤の鳴き真似に猫は不思議そうにきょとんとし続ける。少しの間見つめあっていると斎藤の声に反応したのか、一度だけ「にゃー」と鳴いた。
その瞬間、斎藤の表情がぱぁっと輝き始める。口元を緩ませて、得意げに微笑んだ。
「見ましたか、田中くん。猫さんが答えてくれましたよ」
「そうだな。もっとやってみたらどうだ?」
「はい、やってみます」
一度上手くいったことで楽しくなったのか、もはや恥ずかしさはなくなり、にゃーにゃーと何度も話しかけて試みる。
猫と見つめ合って楽しそうに表情を緩ませる斎藤の姿は、やはり可愛くどこか庇護欲が駆り立てられて、守ってあげたくなるようなそんな感じがした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます