第79話 学校一の美少女は相当な猫好き

 食べさせるはずが、なぜか逆に何度も食べさせられることになってしまったが、なんとか食べ終えてほっと息を吐く。


「美味しかったですね」


「ああ、そうだな」


 空いた皿の前で柔らかく微笑む斎藤がどこか満足げなのは気のせいではないだろう。

 どうにも今日の斎藤は普段より積極的で調子が狂う。そのことに戸惑いながら、首筋を指先でかいた。


「この後は猫カフェですか?」


「そうだな。斎藤の要望だしな。予約はしてあるから待たされることはないと思うぞ」


「そうですか。ふふふ、楽しみです。どんな猫さんがいるんですかね」


 そう呟きながらへにゃりと目を細めて朗らかに微笑む様子からも、本当に楽しみにしてくれているのが伝わってくる。

 

「調べた感じだといろんな種類の猫がいるらしい。俺が知ってるのだと、マンチカン?だったか?はいたのを覚えてる」


「合ってますよ。マンチカンですか。小さくて可愛いですよね。テレビではよく見るんですけど実際に見たことがないんですよね」


「そうなのか?ペットショップとかで眺めてそうだけど」


「な、なんで分かるんですか?」


 俺の呟きに目を丸くして驚きで僅かに声を上擦らせる斎藤。

 ペットショップの前で立ち止まってぼうっと猫を眺める斎藤の姿が容易に目に浮かんだので、試しに口にしてみただけだったのだが、どうやら当たっていたらしい。


「斎藤は好きなものには熱中しやすいからな。なんとなくそう思った」


「別にそんな熱中しませんよ?普通です」


「さっきまでパンケーキを熱く語っていた奴が言っても説得力がないだろ」


「そ、それとこれとは別です!と、とにかくマンチカンは実際に見たことがないので、早く会ってみたいです」


 図星を指されて、斎藤はわざとらしく話題を元に戻し始める。ほんのりと色付かせ羞恥に駆られる姿に嗜虐心がくすぐられたが、これ以上いじると拗ねそうなので、戻った話題にのることにした。


「他には好きな種類とかあるのか?」


「そうですね……。そう言われるとなかなか思いつかないです。あ、でも、アメリカンショートは前に飼ってた猫さんの種類なので好きです」


「あー、この前帰り道で見かけた猫の種類ってそういう種類なのか。よくみんなが想像するザ猫って感じだよな」


「はい。でもそれがいいんですよ。というより猫ならどんなのだって可愛いです。あのツンデレで甘えてくる感じを受けたら、田中くんだってきっとメロメロになっちゃいますから、覚悟していてくださいね」


「そうか、それは楽しみにしておくよ」


 普段よりテンション高く語る斎藤はやはり話すことに熱中していて、まったく誤魔化されていないことに思わず笑ってしまった。


 店を出て猫カフェへとたどり着く。扉を開けて入ると、受付に店員さんが立っており、その奥で猫が歩いたり寝ている姿が目に入る。


「いらっしゃいませ。ご予約されている方でしょうか?」


「はい、田中です」


「かしこまりました。ではこちらにお名前の方お願いしますね」


 寄ってきた店員さんに案内されて紙に名前を書いていく。すると書いている途中で袖をくいくいと軽く引かれた。


「田中くん。田中くん。凄いです。猫が沢山いますよ。歩いてます。ああ!あくびをしている子もいますよ。可愛いです。可愛すぎます」


 俺が想像していた以上にテンションが上がっていて、楽しそうな声を上げる斎藤。目をキラキラと輝かせて部屋の奥へと視線を送り続ける。


「分かった。分かったから。あとちょっとだけ待ってくれ」


 普段の静かな雰囲気はどこへやら、早く早くと暗に急かす斎藤を宥めて、急いで手続きを済ませた。

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