第70話 学校一の美少女の見慣れぬ姿

 アルバムのページをめくる。最初の2、3ページは猫の写真だけがずっと続いていたが、さらに次のページをめくった時、新しい写真が現れた。


「お、これ、斎藤か?」


 現れた写真には猫と一緒に写る斎藤の姿があった。今よりさらに幼いが、目鼻立ちは整っていてぱっちりの二重の瞳は今と変わらない。黒髪も子供の髪せいか今よりは少し色素が薄いがそれでも煌めいていて美しい。幼い無邪気さの中にどこか落ち着いた雰囲気もある、そんな風に見えた。


「あ、そうです。多分5歳くらいでしょうか?」


「へぇ、そうなのか。この時から本好きなんだな」


 写真の中の一枚に、猫と一緒に絵本を楽しそうに読む斎藤の姿があった。どうやら猫に絵本を見せようとしているらしい。


「まあ、そうですね。この頃から多分本を読む楽しさに目覚めたんだと思います」


「へぇ、ほんと昔から本好きなんだな」


「はい、田中くんには負けそうですが」


「いや、俺も同じくらいだぞ。自分から本を読み始めたのは」


「そうなんですか」


 そんなたわいもない会話をしながら次のページへと進む。するとまたしても斎藤の姿があったのだが、今度は見慣れない髪型だった。


「へぇ、ツインテールもするんだな」


 頭の中間あたりでちょこんと2つに結ばれ、見事なツインテールになっている。今の年になればツインテールなんてすることはないので、ツインテール姿の斎藤というのはとても新鮮だった。髪型のせいか少しだけ活発な女の子に見える。


「そうですけど、何か変なところでもありましたか?」


「いや?斎藤のツインテールは見たことがなかったから少し気になっただけだ」


「そうですか……少し待っていてください」


「え?」


 特に何も考えずに言うと、何やら真剣な声でそう言い残して隣の部屋へと行ってしまった。


(どうしたんだ、急に)


 斎藤が急にいなくなった理由が分からず戸惑ってしまう。別にアルバムがあることでも思い出して取りに行ったのだろうか?


 アルバムを適当に眺めながら待つ。少しすると、扉が開いて斎藤が姿を表した。


「は?」


 思わず間抜けな声が漏れ出る。彼女はさっきまで下ろしていた髪をふたつに縛り、ツインテールになっていた。あまりにも彼女の姿が想定外のもので言葉が出てこない。俺が黙ったままなので、不安になったのか少しだけ弱々しい声で上目遣いに尋ねてくる。


「ど、どうですか?」


「えっと……どうしたんだ?」


「え?ツインテールが好きなんじゃないんですか?」


 とりあえずどうして急にツインテールになったのか尋ねると、きょとんと目を丸くして固まった。どうやら、俺が「気になる」って言ったのを「好き」という意味で捉えたらしい。


「いや、別にそういうつもりで言ったわけじゃなかったんだが……。ま、まあ、あれだな。いつもより幼く見えて可愛いと思うぞ。うん」


 きょとんとしていつもの張り詰めた雰囲気がなく、あどけない雰囲気になっている斎藤にツインテールというのはまあ悪くなかった。


 ただ。流石に高校生にもなって多少なりとも大人の雰囲気がある状態でのツインテールはどこかちぐはぐで笑ってしまう。特に斎藤は普段は大人っぽい雰囲気なのでなおさらだった。


 別に似合っていないわけではないのでどう言ったものか悩みながら伝えると、瞳が左右にうろうろと彷徨よい、段々と白い頰が朱に染まり始めた。


「え、えっと……その……わ、忘れてください!」


 焦ったようにそれだけ言い残して、隣の部屋へぱたぱたと小走りで戻っていった。パタンと扉の閉じる音だけがリビングに響き渡る。その後すぐに戻ってくるが、既にツインテールではなく元のロングのストレートに直っていた。


「さあ、田中くん、アルバムの続きを見ますよ」


「お、おう。なあ、さっきの……」


「アルバム見ますよ?」


 さっきのことに触れようとすると、強い口調でそれだけ言われてしまう。どうやらもう触れられたくないらしい。俺はこくこくと頷いてアルバムのページをめくった。


 

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