第69話 学校一の美少女と行き先を決める

「どこか行きたいところはあるか?」


 熱くなった頬の熱を逃しながら、口を開く。とりあえずデートを楽しみにしてくれているのは分かったので、次は行き先を決めなければならない。自分で勝手に決めてもいいが、せっかく2人で出かけるのだから斎藤にも楽しんでほしい。


「そうですね……うーん」


 思い付かないのか、斎藤は視線を斜め上にずらして唸り続ける。そこで、ふと斎藤が猫好きだったことを思い出す。それならばと思いついた場所を提案してみることにした。


「じゃあ、猫カフェとかはどうだ?」


「猫カフェ!あっ……い、いいと思います」


 俺の提案に声を少しだけ上げ、一瞬ぱぁっと表情を輝かせる。だが、すぐに我に帰ったらしく、恥ずかしそうに頬を朱に染めていつものテンションに戻ってしまった。

 冷静な雰囲気を装っているが、テンションが上がっているのはバレバレだ。一生懸命隠そうとする斎藤の反応につい苦笑がこぼれ出てしまう。


「別に隠さなくても良いぞ?」


「好きなもので無邪気に喜ぶなんて子供っぽいじゃないですか」


「そうか?その……俺は可愛いと思うけどな」


「か、可愛い……。も、もう良いですからやめて下さい」


 斎藤にとってはさっきの反応は恥ずかしいものだったらしい。これ以上は触れられたくないようでぷいっとそっぽを向いて、語気を強めて言われてしまった。


「まあ良いけどさ。それで猫カフェでいいか?斎藤、猫好きだろ?前一緒に帰った時も楽しそうに猫を眺めてたし」


「はい。猫カフェは一回行ってみたかったので行ってみたいです。それにしても私が猫好きだってよくわかりましたね」


「まあな」


 あんな猫語で話そうとしたところ忘れられるはずがない。今思い出してもあの時の斎藤の姿は可愛らしくてつい笑みが溢れでる。


「今度も猫語で話したら、反応してくれるかもな」


「えっ!?そ、それは忘れてください!」


 ちょっとからかってみると、顔を真っ赤にして言われてしまった。不満げに頬を膨らませて上目遣いに少しだけ睨んでくる。だが、まったく怖くはなく、むしろさらに弄りたくなる。まあ、これ以上弄ったら何を言われるか分からないのでやらないが。


「そういえば前に猫飼ってたって言ってたよな」


「はい、もういなくなってしまいましたけど」


「写真とかないのか?」


「えっと……確か私の部屋にあったと思います。見ますか?」


「ああ、頼む」


「ちょっと待っててくださいね」


 そう言い残して、斎藤は閉じていた扉を開けて隣の部屋に入っていく。扉を閉めるのを忘れたのか扉は開けたままなので、彼女の部屋の中が一部見える。見ていいか迷ったが、つい初めて見る好奇心に負けて部屋の中を覗いてしまった。


 全体的に白を基調としていて綺麗に整頓されている棚や机がある。女の子らしさはないもののとても清潔感があり、なんとなく真面目な彼女らしいなと思った。


 そこまで眺めたところでふと机の上にあるものに目が行く。それは写真たてだった。写真には今より少し幼い斎藤と母親らしき人物が写っていた。だが父親は写っていなかった。


(…………)


 初めてみる斎藤の母親は、彼女に似てとても綺麗な人だった。斎藤が大人になり、さらに歳を重ねたら写真の母親のようになるかもしれない。そんな予想がつくくらいには似ていた。父親が写っていないのは、写真を父親が撮ったからかもしれない。だが、或いは……。


 彼女の両親と会ったことはないし、その話を聞いたこともない。ただ今までの付き合いから、彼女の状況には何かしらの家庭環境が関わっていることが察せられる。まあ。だからといって、人の家庭環境なんて軽く触れて良い話題でもない。心のうちにしまい込んで、俺は彼女の部屋から視線を逸らした。


 しばらくすると、棚を探す物音が止み、部屋から斎藤が厚めのアルバムを抱えて出てきた。

 

「お待たせしました。結構奥の方にあったみたいでなかなか見つかりませんでした……ってどうしました?」


「ん?いや、なんでもない。それより猫、確かココアだったか?見せてくれ。自慢の猫だったんだろ?」


「それはもう。こっちの猫がココアです」


 誤魔化すように話題を変えると、斎藤はキラリッと目を輝かせてアルバムを机の上に置く。そのまま置いたアルバムを開いて、何枚も写真が貼られたページを見せてくれる。そこには、子猫の時からだんだん大きくなって大人になるまでの変遷があった。


 ある写真では、伏せて寝ている姿。ある写真ではきょとんと首を傾げている姿。別の写真では、玩具と戯れる姿が写っていた。


「へー、確かに可愛いな」


「でしょう?私の大事な親友だったんですから」


「……そっか」


 横を見ると、猫のことを思い出しているのか、懐かしむように目を細める斎藤の横顔があった。儚く微笑む斎藤は思わず見惚れるほど綺麗で、なぜか無性に胸が締め付けられた。

 

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