第66話 学校一の美少女と仲良くなれた理由
「やぁ、田中」
「よお、一ノ瀬」
次の日、学校に着くと一ノ瀬はいつものように楽しそうに微笑んで挨拶をしてきた。心なしかニヤついているようにも見える。そんな一ノ瀬にどう話を進めて行こうか悩みながら提案した。
「少し、人のいないところで話さないか?」
「そうだね。俺も田中に聞きたいことがあるからね」
俺の誘いに快く頷いて人のいない教室に移動する。途中、何人かとすれ違って一ノ瀬は軽く挨拶していた。やはり学校で有名なだけのことはある。顔が広い。人気のない校舎端の空き教室に着くとすぐに、俺は手を合わせて拝んで頭を下げた。
「頼む!バイトしていることは黙っていてくれないか?」
「へ?う、うん、元々それはそのつもりだったけど……」
「そうなのか」
元々黙っておいてくれるつもりだったらしく、俺の必死な頼み込みに少し呆気に取られたように固まる。だがすぐに快く頷いてくれた。とりあえず皆にバレるようなことにはならなそうでほっと息を吐く。流石に学校に知られるのはまずいし、どうなるか分からないので黙っていてくれる一ノ瀬には感謝しかない。
「ありがとな。秘密にしてくれて」
「別に、人を貶めて楽しむ趣味はないからね。どうして田中が斉藤さんとあんなに仲良くなれたのか、その理由が分かったことだし、それで十分満足だよ」
どこかすっきりしたように爽やかに笑う。だがその一ノ瀬の言葉が少し不可解だった。つい首を傾げて聞き返す。
「俺と斎藤が仲良くなれた理由?」
「田中が斎藤さんと親しくなれた理由。あのバイト先にいた柊さんだね?」
「あ、ああ、そんなことまで分かるのか。この際だから素直に認めるよ。確かに斎藤と仲良くなれたのは柊さんのおかげだ」
一ノ瀬の推理力は恐ろしい。柊さんと話しているようには見えなかったが、俺と柊さんの関係を見破るとは。バレているのなら隠しても意味がないので素直に認める。すると、一ノ瀬はうんうんと納得したように肯いた。
「やっぱりか。だって柊さんってさ……」
「ああ、俺の1番の相談相手だよ」
「……え?相談相手?」
「ん?そうだぞ?」
一ノ瀬から言ってきたのに、何故か俺の言葉を聞き目を丸くして固まる。何かおかしいことを言っただろうか?不思議に思い一ノ瀬の様子を窺うと、一ノ瀬は少し考えこむように顎につまむと、何か大事なことを確認するようにゆっくりと尋ねてきた。
「……相談相手っていうと、前に頼りになる相談役がいるって俺との相談を断った相手のことかい?」
「ああ。バイトが終わった後よく相談に乗ってもらっているんだ。流石にこのことを話したらバイトしていることがバレるから今まで黙ってたんだ」
「……な、なるほどね」
少し考え込んだあと、一ノ瀬は表情を緩ませておかしそうに肩を震わせ始める。プルプルと堪えきれないように肩を揺らす。
「そういうことか。そういうことね。あはは」
そのまま小さく呟き、堪えきれなくなったように声を上げて笑い始めた。急に笑い出してどうしたのだろうか?一ノ瀬の反応に思わず戸惑う。俺は疑問をぶつけるように一ノ瀬を少し睨んだ。
「なんだよ、急に笑い出して」
「いや、なんでもないよ。ちなみにその相談ってどういうことしてるんだい?」
「なんでお前に教えなきゃいけないんだ。言うわけないだろ」
「そう言わないで、教えてよ。ほら、バイトしていることを黙っているその黙秘代ってことで」
「……斎藤とどうやったら仲良くなれるか、とかだよ」
黙っている代わりと言われてしまえば仕方がない。渋々ながらも教えてやる。まあ、少し恥ずかしいが教えたところで俺に不利益があるわけではないしいいだろう。
俺の言葉に、目を心なしか輝かせて興味津々といった様子でぐいっとさらに踏み込んでくる。
「へぇ。それで柊さんはなんて答えていたんだい?」
「手を繋いだらいいと思うって答えたよ。そのアドバイスに従って繋いだのがこの間の時だ」
「なるほど。なるほどね。それは的確なアドバイスだね。斎藤さんはきっと喜んだんだろうね?」
楽しそうに笑ってクスクスと肩を揺らす。いつもの貼り付けたような笑顔ではなく、心からの笑顔で笑い続ける。何がそこまで面白いのかは分からないが、笑う一ノ瀬は人間らしくて悪くはない。
「そりゃあな。さすが同性というだけのことはあったよ。女の子の気持ちを的確に教えてくれるし、いつも頼りになるんだ」
「あはは、それは頼りになるね。うん、確かにその相談相手じゃあ、俺は勝ち目がないや」
「やっと分かったか」
どうやら、どれだけ柊さんが有能かを理解してもらえたらしい。柊さんには本当に助けてもらっているので、柊さんが褒められたことが誇らしくついドヤ顔を浮かべてしまう。
「ちなみに、その手を繋ぐアドバイスをしてくれた時の柊さんの様子は?」
「柊さんの様子?少し恥ずかしそうにはしていたな。やっぱりそういう乙女心を赤裸々に語るのは恥ずかしかったんだろうな」
「そ、そうか」
一ノ瀬の質問は要領を得なかったが答えてやると、いつまでもおかしそうに笑い続けた。
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