第55話 学校一の美少女は一緒に過ごしたい
冬休みも残り2、3日となったある日、斎藤は珍しく勉強をしていた。
普段の彼女なら隣で本を読んでいるのだが、今日は何やらノートに色々書いていて、その姿が気になり尋ねる。
「珍しく、本読んでないな。なにやってるんだ?」
「学校の課題です。もうすぐ冬休みが終わるので」
「ああ、なるほど。最後の方にやるなんて、なんか意外だな。てっきり冬休み入ってすぐに終わらせてるものかと」
勝手なイメージだが、彼女の真面目さなら手早く終わらせて、悠々と冬休みを送っているタイプだと思っていた。
もちろん俺が勝手にそう思い込んでいただけなのでそれまでといえばそうなのだが、少し不思議に感じて内心で首を傾げていると彼女は言葉を続けた。
「普段ならそうなんですけど……」
「けど?」
「その……今回は、気になることがありまして、そっちに気を取られていたら課題をやるのを忘れてました……」
俺から視線を横にずらして、頰を薄く朱に染める。そのまま少し上擦ったような声で小さく呟いた。
ほんのり色付いた表情からは彼女の恥じらいが見えた。
「ふーん?」
課題を忘れたことがそんなに恥ずかしいことなのか、不思議に思いながらも頷く。
真面目な彼女のことだから、ミスをしたことを人に知られたことが恥ずかしかったのかも知れない。
「田中くんはもう課題終わっているんですか?」
「もちろんだ。冬休みの始めの2、3日で全部終わらせた。気持ちよく本を読むためにな」
一度、新刊が楽しみすぎて本を読むことを優先したことがあったが、どうにもあの課題が脳裏にちらつく感じのせいで集中出来ないことがあった。
なので、あれからは必ず長期休暇の時は最初に課題をやることにしている。本のためなら、可能な限りの努力は惜しまない。
「……なんといいますか、田中くんらしいですね」
俺の言葉を聞いた彼女はくりくりとした瞳を見開いて、少しの間ぽかんと呆けて固まる。その後、ふんわりと表情を緩めて可笑しそうにクスッと笑った。
「まったく褒められている気がしないな」
自分でも本に関しては目がないことは自覚しているので反論の言葉が出てこず、肩を窄めて苦笑を零すしかなかった。
「そういえば、冬休み終わったらどうする?前みたいに図書室でいいか?」
「いえ、田中くんさえ良ければ、私の家でいいですよ」
「そうなのか?俺なんかのために悪いな」
意外ではあったが、それだけ心を許してくれているというのを感じて嬉しくなる。にやけそうになる表情を引き締めていると、彼女は優しく柔らかい声で口を開いた。
「田中くんと一緒にいるのは居心地がいいですし……それに……」
「ん?」
頰を朱に染めたかと思うと言いにくそうにして、小さく俯く。そのまま机の上のノートを持ち上げ口元を隠したかと思えば、ちらっと覗き込むように上目遣いにこっち見つめてくる。
どこか熱っぽいような瞳は色っぽく、強く視線が惹きつけられた。
「それに……お家なら田中くんの隣にいられますから……」
恥じ入るような甘美な調子の声が耳をくすぐる。その言葉を理解した瞬間、頭の中は真っ白になり熱が一気に湧き上がってきた。
「お、おう、そうか……」
動揺を隠しきれず、顔が熱い。こみ上げる羞恥から逃げるように慌てて顔を逸らす。
(くそっ、本当に心臓に悪い……)
ドキドキと自分でも分かるくらいうるさく心臓が鳴り響く。なんともいえないもどかしい痛みと痺れるような甘さが胸に広がっていた。
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