第54話 バイト先の彼女に報告する

「あれからどうなりました?何か進展はありましたか?」


 バイト終わり、柊さんが興味津々といった様子で話しかけてきた。コイバナというのは女子高生の関心を引くようで、最近は柊さんから話しかけられることが多くなっているように感じる。


「ええ、まあ、一応ありましたよ。おそらく自分が彼女のことを意識し始めていることに気づいたのか、彼女の方からぐいぐい積極的にくるようになりました」


 彼女はもともと異性から好意を向けられることが多いので、そういった好意に敏感だ。俺が好意を持ち始めていることにも気付いたのだろう。

 その上で彼女の方から積極的に来てくれているのだから、それはつまり……そういうことなのだ。

 勘違いでもなんでもなく、おそらくだが彼女も自分に好意を抱いてくれている。自惚れているようでなんとなく自分で自分に恥ずかしくなった。

 

「へ、へぇ。その……どうでした?積極的に来られて。急に態度が変わって嫌な気分になったりとか」


 俺の返答にピクッと身体を震わせて反応をした後、ちらっと上目遣いに少しだけ弱い声で尋ねてくる。

 

「まさか!少し戸惑いはしましたけど、好きな人からのアピールが嫌なわけありませんよ。まして彼女はそういうことは不慣れなはずなのに、頑張ってくれている姿がいじらしいといいますか、とても可愛かったです」


 確かに親しくもない人から距離を詰められたら、身を引きたくもなるが彼女に限ってそれはない。

 強く否定する意味でつい声が大きくなってしまった。


「そ、そうですか」


 俺の声が大きくなったことに少し驚いたようで、少し噛む。そのままほんのりと頰を色付かせて目線を下げる。うろうろと地面を彷徨わせたあと、またこちらを見上げてきた。


「その……結構そういう彼女さんの恥ずかしがってる姿とか気付くんですね」

 

「まあ、彼女の場合、かなり頬が赤くなっていますからね」


「え!?そんなに赤いんですか!?」


 俺の指摘に驚いた声を上げて、ぐいっと身を乗り出してくる。


「ま、まあ。見れば多分誰だって分かるくらいには」


「そ、そんなにですか……」


 その態度に少し引きながらも答えると、小さくポツリと零して俯いてしまった。


 頰が赤いことになぜそんなに食いついてきたのか分からない。気にするような要素はないと思うのだが。

 柊さんがなぜそこまで彼女の頰を赤さを気にしているの不可解でつい尋ねる。


「なんでそんなに気にするんですか?」


「え?えっと……そうです!そんなにバレバレなんて知ったら彼女さん、きっとまた恥ずかしがるだろうなって」


「ああ、なるほど。まあ、それはそれで可愛いから全然いいですね」


「っ!?」


 目を丸くして驚いたような、それでいて焦っているような表情が彼女の顔に一瞬で浮かんだ。


「最近は表情が豊かになりましたけど、それでもやはりあんまり感情が顔に出る人ではないので、そういう女の子らしいところとか見ると可愛いですし、ドキドキしますから」


「へ、へぇ……」


 人の惚気ということで少し恥ずかしかったのか、頰を赤く染めて俺から視線を少しだけずらしながら相槌を打ってくる。

 ただ俺がときめいていることは面白かったようで、逸らした横顔の口元は少し緩んでいてにやけて楽しそうだった。


「まあ、最近の積極さだけでこっちは精一杯なので、これ以上積極的に来られるのはやめて欲しいところですね」


「そうなんですか?」


「そりゃあ好きな人に近づかれたら動揺しますから。今でさえ平静を装うので精一杯です」


「なるほど……では、そうならないよう願うしかないですね?」


 困ったことをアピールするように肩を窄めて言うと、柊さんは少し考えるようにした後クスッと笑った。

 彼女の顔にはなぜか悪戯を閃いたような小悪魔っぽい微笑みが浮かんでいた。

 どこか蠱惑的で不覚にもドキッとしながら、なぜそんな表情をしたのかわからないまま、「そうならないことを祈るばかりです」と切に願って答えた。

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