第53話 学校一の美少女は触りたい
(まったく……。ぐいぐい来るのは決して嫌ではないしむしろ嬉しいが、心臓に悪い……)
隣で彼女が本についてどこが面白かったかを楽しそうに語ってくれているが、こっちはそれどころではなかった。
ピタリと肩同士がくっついたままである、その状況に注意が向き集中していられず、彼女の話が頭に入ってこない。
異性、それも自分が好ましく思っている人に触れているともなれば意識してしまう。
動揺しドギマギして、心の落ち着きを取り戻すことが出来なかった。
ちらっと隣を見れば、薄く頬を薔薇色に染めて話す彼女の姿があった。
そこまで恥ずかしそうにしながらも積極的に来てくれているというのは、なんとも言えない嬉しさがありとてもむず痒い。なんだか微妙に身体が熱くなり、その熱を逃すように袖をまくって腕を露出させると、隣からの声が止んだ。
急に黙った彼女を不思議に思い様子を窺うと、彼女は興味ありげに俺の腕に視線を送っていた。
「どうした?」
「っ!え、えっと……」
俺が声をかけるとビクッと驚いたように体を震わせる。どこか焦ったように視線が左右に揺れる。
「ん?」
「た、田中くんの腕が意外としっかりしていて、男の子の腕だなーって」
恥ずかしそうに少し顔を伏せながら、小さく呟く。
おそらく、いつもは袖に隠れていたため見える腕が新鮮だったのだろう。それで目に留まったという感じか。
「そうか?まあ、女子に比べればな」
「さ、触ってみてもいいですか……?」
そこまで興味が引かれるようなものかな、と不思議に思っていると、彼女は頬を薄らと赤く染め、躊躇いがちにとんでもないことを言い出した。
「……え?」
予想だにしなかったことを前に言葉を失う。
「い、いえ、嫌なら大丈夫です……」
返事を返すことなくただ固まっていたので俺が嫌がっていると思ったのか、しゅん、と肩を窄めて俯くように顔を伏せた。
「い、いや、別に……嫌ではないぞ?」
「なら、いいですか?」
「ま、まあ……」
別に断る理由もないし、そんなに落ち込まれてしまうとなんとなく見ているこっちが心が痛くなる。
好きな人になら触れられても嫌ではないし、日頃の恩返しの意味も含めて出来るだけ要望には応えたい。
少し緊張しながら腕を差し出すと、彼女は耳を赤くしながらおずおずと腕に触れてきた。
細く白い綺麗な指先が肌を撫でる。壊れ物を扱うように丁寧に触り、腕の感触を確かめている。
さわさわと控えめに触るのでなんというかむず痒い。腕に指を這わせてスーッと撫でる仕草は、どこか扇情的で妙な気分になってしまいそうだ。決していやらしいことをしているわけではないが、劣情を駆り立てられている気がしてくる。
それに加えてまじまじと真剣に見つめられながら異性に身体を触られるという経験なんてこれまで1度もなかったので、少しだけだが羞恥もこみ上げてくる。
少しの間我慢していたが、だんだんと耐えきれなくなりつい尋ねた。
「なあ、くすぐったいんだが……。もう、いいか?」
「は、はい、もう大丈夫です」
夢中になっていたのか、少し驚いた声を上げる。ちょっとだけ名残惜しそうにしながらも手を腕から離した。
触れられていた緊張から解放され、ほっと息を吐く。無意識に肩に力が入っていたらしく、強張っていたことを自覚した。
「どうだった?」
「えっと……自分の腕とは違ってかなり筋肉質で触り心地が違いましたね。想像していたよりもずっと違っていて、その……田中くんも男の人なんだなーってちょっとドキドキしました……」
恥ずかしそうに少し目を伏せながら、上目遣いにこちらを見つめてくる。ほんのり頬を色づかせて微かにはにかむ姿は愛らしい。その表情のまま情感のこもった声でポツリと小さく呟いた。
「お、おう。そうか……」
あまりに魅力的な微笑みに見ていられず、そっと視線を逸らした。
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