第52話 学校一の美少女と感想を語り合う
「田中くん、おすすめの本ありがとうございました。凄い面白かったです!」
キラキラと目を輝かせて楽しそうに笑う彼女は、当たり前のように隣に座っていた。ふわりと彼女のフローラルな甘い香りが鼻腔を擽り、思わず胸がドキリとする。
あの日から彼女は隣に座るようになった。
どうして隣にくるようになったのかは分からない。ネットで見た異性を意識させる方法の一つとして『隣に座る』というのがあったが、彼女がその目的で隣に座っている保証なんてのはない。
ただ、そうであったらいいな、と少しだけ都合良く期待している自分がいる。確信には至らないけれど、好かれているのではないか?そんな期待を胸に抱いていた。
「もう読み終わったのか?」
「はい!面白くて一気読みしちゃいました。おかげで少し寝不足です」
そう言って少し眠そうに小さく口を開けてふわぁっとあくびをする。眠気を覚まそうと両目を擦っている姿はどこか猫みたいで可愛らしい。ぱっちりと目を開けた彼女はまた顔を輝かせてこっちを見てきた。
本を貸してから2日しか経っていないが、もう読み終わったようで、さすが本好きなだけのことはある。
よほど面白かったのか、今日の彼女はいつも以上にテンションが高く饒舌だった。
「あのトリックが明らかになるシーン凄くなかったですか?」
いつもと違い明るくハキハキと話す姿には、普段の大人っぽい雰囲気ではなく年相応のあどけない柔らかい雰囲気があった。
どこか子供が無邪気に話す姿のようにも見えて微笑ましく、つい口元が緩む。
「ああ、俺も最初読んだときはめっちゃ鳥肌立った。あのどんでん返しのトリックは予想出来ないよな」
「はい!もう驚きすぎてそこだけ何回も読み返してしまいました。あそこまで鮮やかに期待を裏切られたのは初めてです」
自分のお気に入りの本を他の人が楽しんでもらえるのはそれだけで嬉しく、少しテンションが上がってくる。彼女の雰囲気につられて、つい自分も饒舌になってしまった。
「そりゃあ、良かった。他に気になったシーンはあったか?」
「えっと……最後のシーンは感動して泣きましたね」
「最後?どのシーン?」
「このシーンなんですけど……」
「ん?」
本を開いてそのシーンが書いてある部分を指差すので、見やすくなるように体を寄せる。本に注意が向くあまり、彼女の肩にトンッと触れてぶつかってしまった。
ほんのりと肌の柔らかい感触が布越しの伝わってきて、慌てて離れる。ちらっと隣の様子を窺うと、彼女は頰を薔薇色に染めて小さく俯いていた。
「わ、悪い」
「い、いえ、 田中くんならくっついても嫌じゃないので……その、いいですよ?」
恥ずかしそうに目を伏せながら、居心地の悪そうにもぞもぞと身体を動かす。ちらっと一瞬だけこちらを見ると、おずおずと身体を寄せてくる。そのまま離れた距離を詰め、俺と彼女の間の空いた隙間をゼロにした。
俺と彼女の肩同士が触れ合うようにくっつき、ほのかな彼女の体温が伝わってくる。女の子らしい柔らかい感触に強く異性を意識してしまい、頰が少し熱くなった。
想定外のことに驚き動揺して、慌てて隣を見る。
「お、おい」
「ほ、ほら、この方が見やすいですから。仕方なくです」
彼女は俺からぷいっと顔を逸らして、そっぽを向きながら早口で言い訳にも似た理由を述べる。わざとらしく付け足された理由が本音じゃないことは一瞬でわかった。
「そ、そうか……」
彼女の気持ちに一気に顔が熱くなる。
なんと言っていいか分からず、ただ相槌を打って彼女の後ろを見ていると、彼女の耳裏とうなじが赤く朱に染まっているのが目に入った。
むず痒く恥ずかしいような感覚に襲われ、それ以上見ていられず本に視線を落とした。
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