第45話 学校一の美少女との帰り道

「送ってくれてありがとうございます」


 彼女の家の玄関先に到着すると礼を言ってくる。ぺこりと頭を下げたことで、月明かりに揺れた彼女の髪が煌めいた。


 わずかな時間であったが、滅多にない2人での外出は想像以上に楽しく少しだけもの寂しい。なんだか名残惜しく、別れ難かった。


「あ、待て。これ、やるよ」


 そう言ってあるものをポケットから取り出して渡す。少し重い気もしたが、日頃の恩を返す意味でもちょうどいいものだったので、彼女がおみくじに夢中になっている間に購入したのだ。


 受け取った彼女は不思議そうな顔をして、渡したものを揺らす。

 赤で彩られた長方形は闇夜でも綺麗に煌めいた。


「……お守り?」


「ん、良縁のお守りだって。恋人とか友人とかのいい人に出会えるようになるらしいぞ」


「なるほど」


「まあ、なんだ……ちゃんとお前のことを見てくれる特別な人に出会って欲しいなと思ってな」


 見た目の良さではなくもっと中身を見てくれるような人に出会って、幸せに笑って欲しかった。

 ただ、自分の気持ちを正直に伝えるのはなんだか気恥ずかしく、つい素っ気ない口調になってしまう。


 多少冷たい言い方になってしまったが、聞いた彼女は口元を少し緩めほんのりと優しく微笑んだ。

 わずかに頰を色づかせながら目をへにゃりと細めて、柔らかく嬉しそうにはにかむ。


「ありがとうございます。でも、もうすでに1人は出会ってますよ?」


「そうなのか?」


「もう……田中くんに決まってるじゃないですか」


 クスッとほんのり色気を孕んだ笑みで見つめてきた。どこか蠱惑的で惹きつけられ、ドキリと胸が高鳴る。

 薄々感じてはいたが、やはり彼女は俺のことを信頼できる友人と思ってくれているらしい。実際に面と向かって言われるのはなんだか嬉しく、そして無性に恥ずかしかった。

 顔が熱くなるのを感じたが、それ以上に初めて名前を呼ばれた驚きがまさった。


「今、名前で……」


「前から呼びたかったんですけど、ずっとあなたで定着していたので変えられなかったんです。その……呼んでもいいですか?」


 言いにくそうに目を伏せると、ちらっと上目遣いにこちらを伺ってくる。

 ほんの少しへにゃりと眉が下がり頼み込む姿は、保護欲が駆り立てられ撫でたくなるような可愛さがあった。


「ああ、別にいいけど」


「ありがとうございます」


 特に呼ばれて不都合があるわけではないので了承すると、ぱぁっと目が明るくなり嬉しそうに表情を緩める。

 そのまま頰をほんのり朱に染めると、ちらっと期待する目を向けてきた。


「その……私も呼んで欲しいです」


「分かった。これからはちゃんと呼ぶから。じゃあな、斎藤」


「はい、今日はありがとうございました」


 ただ名前を呼んだだけだというのに胸が躍りそわそわする。また少し彼女と近づけた気がして嬉しくなり、そのせいもあってか帰り道の足取りは軽かった。



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