第39話 学校一の美少女はからかいたい

 予定外ではあったが、斎藤と初詣に出かけることになった。


 かなり楽しみにしてくれているらしく、本は読んでいるがどこか落ち着かなさそうにそわそわとしていた。

 そんな様子が微笑ましく、つい笑みが零れてしまう。笑う俺に気付いた彼女はほんのりと頰を色づかせながら「なんですか?」と睨んでくる。そんなことが何回か繰り返された。


「じゃあ着替えてきますので」


 夜も遅くなり22時を過ぎた頃、彼女はパタンと本を閉じて、そっと立ち上がった。


「え?その格好じゃないのか?」


 ふつうに今の格好で行くと思っていたので、つい尋ねてしまう。

 着替える必要性があるのだろうか?

 もともと俺は出かける格好だったので特に問題はなかったが、別に彼女も今のまま出かけたところで多少ラフさはあるが不自然さはない。

 スキニーの黒ズボンに白のパーカーならシンプル過ぎる気はするが気にするほどではないと思うのだが。


「流石に人にこんな部屋着の格好は見せられませんよ」


 はぁ、と小さく息を吐き、呆れた目を向けられた。


 確かに女の子としてのよそいきの格好としては相応しくはないので、それを気にしているのだろう。

 ちゃんと女の子への配慮をして下さい、と目が言っているような気がした。


「俺はいいのかよ」


「あなたは別に……、こういう格好だから態度を変えるような人ではないとわかっていますから」


「そりゃどうも」


 格好を気にするなら俺に対してもちゃんとした格好で接しそうなものだが、俺には一応気を許してくれているらしい。

 また妙な信頼をされているな、と思い苦笑を零す。


「じゃあ、風呂場で着替えてきますので」


「はいよ」


 そう言い残して、スタスタと部屋の出口の方へと向かっていく。

 そのまま出ていくのかと思ったが、ドアノブに手をかけた時こちらに振り向いた。


「あ、覗かないで下さいね?」


「覗かねえよ……」


「知ってます。冗談ですよ」


 何を言っているんだ、と軽く睨むとクスッとからかうように笑う。

 いたずらっぽく瞳を細めてはにかんだ彼女は、普段のあどけなさよりも色っぽさが強く、一瞬息をするのを忘れた。

 今まで見たことのない甘くて、それでいて少し刺激的な笑み。小悪魔的とさえいえる大人の影がちらつく微笑みは、俺の心臓を責め立てるのに十分なほどだった。

 硬直し頰に熱が籠るのを感じながら、なんとか言葉を吐き出す。


「……とっとと行け」


「はい、着替えてきますね」


 いたずらが成功したことに喜ぶ子供のように口元を緩めて部屋を出て行く。


 いいようにしてやられた感が強く、少しだけうらめしい。

 いろんな意味で心臓に悪いので、こういったからかいはやめてほしいものだ。

 扉の向こうに消えた彼女に、はぁ、と小さくため息を吐いた。

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