第38話 学校一の美少女は憧れる

 12月31日大晦日、相も変わらず斎藤の家で本を読んでいた。


 今でこそ慣れてしまったが、よくよく考えれば今の状況になるなんて知ったら過去の俺は驚くに違いない。

 こんな可愛い女子と2人きりで一緒の部屋にいるようになるなんて。


 ちらっと彼女を見ると、真剣な表情で本を読んでいる。

 いつものように無表情だが、瞳は薄ら明るく楽しく読んでいるのが伝わってくる。

 最近は無表情でも何を考えているかなんとなく分かるようになってきた。かれこれ三ヶ月も関わっていれば、自然と変化の違いに気付けるようになった。


 彼女とこんな関係になるなんて不思議なものだ、感慨深く思いながらお茶に手を伸ばそうとした。


「あっ」


 たまたまテーブルの端に置かれていたテレビのリモコンが膝に当たり落ちてしまう。

 声が漏れ出るだけで反応出来ず、リモコンはガチャンと音を立てて床に落ちた。


「大丈夫ですか?」


「ああ」


 せっかくの集中を途切らせてしまったことに申し訳なさを感じつつ、いそいそとリモコンを拾い上げる。

 顔を上げると、テレビから音が聞こえてきた。


「えー、それでは……」


 落ちた時にスイッチが押されてしまったらしい。テレビの電源が入ったらしく、ちょうど何かのインタビューを若者が受けている映像が流れていた。

 この後どう過ごすかについて聞かれているらしく、夜に初詣に行くと答えていた。


 なんてことはない、ありきたりな番組だ。特に何も興味をそそるものもなかったので電源を切ろうとすると、小さな声が聞こえた。思わず漏れ出たような本当に細い声だった。


「いいなぁ……」


 声がした方を向くと、彼女はうすく目を細め、まばゆいものを見たときの表情を浮かべていた。

 憧憬と羨望の滲んだ、うらやみあこがれるようなそんな眼差しだった。

 どこか少しだけへにゃりと眉を下げる姿にきゅっと心が痛む。なんとなくこんな彼女は見たくなかった。


 おそらく友人と行ったことがないのだろう。あるいは行けなかったなんらかの理由があったのか。

 彼女にとって夜の初詣というのは、初めてのもので憧れる何かがあるのかもしれない。

 俺自身は特に元旦に行く予定はなかったが、彼女が望むなら行かせてやりたい。

 彼女にはとてもお世話になっているので、そんな些細な望みくらいは叶えてあげたかった。


「初詣、一緒に行くか?」


「いいんですか?」


 俺の発言が意外だったようで目をぱちくりと瞬かせる。きょとんとくりくりとした瞳と目が合った。


「ああ、いいよ。夜行こうぜ。夜なら暗くて一緒にいてもバレにくいだろうし」


 もしバレてしまった時はその時だ。彼女のあんな表情を見せられたら、そんなことを気になんてしていられない。

 彼女の願いを叶えられるなら、そんなことは些細なことだ。


「……ありがとうございます」


 ぱぁっと目を輝かせ、ぺこりと頭を下げる。礼を言う彼女はほんのりと口元を緩め、柔らかな笑みを浮かべていた。


♦︎♦︎♦︎


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 この作品を作る元となった作品


『地味な幼馴染が好きな俺はバイト先の黒髪美少女に恋愛相談しているが、なぜか彼女はいつも頰が赤い。なお、2人は同姓同名』


が完結したので、ぜひ読んでみて下さい。(*・ω・)*_ _)ペコリ

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