第34話 学校一の美少女と年末年始の予定

 クリスマスを過ぎればすぐに年末となり、街中は休みとなった人達で活気が溢れるようになる。

 正月用のおせち料理やその素材、又は年末に過ごすそばなど普段はあまり見ないような料理がスーパーに並び、独特の雰囲気が街に漂う。

 だがそんな街中の雰囲気とは無縁な俺たちは、相変わらず静かに本を読んで過ごしていた。


 ちらりと彼女を見ればいつものように無表情で本を読んでいる。

 真剣に本を読む姿は凛々しく、笑ったときとはまた別の魅力があって美しい。その澄ました表情で視線だけが文章を追うように上下へと動いていた。


 ふと彼女の読んでいる本に気付く。

 普段、彼女はさまざまな種類の本を読んでいて、同じタイトルのものを続けて読んでいるところを見たところがない。サスペンスものにシリーズがあまりないというのもあるが。

 だが最近、彼女は珍しくシリーズの本をずっと読んでいる。滅多にない彼女が読むシリーズ物ということで興味がそそられた。


「なあ、最近ずっとそのシリーズ読んでいるけど面白いのか?」


 聞いたことがないタイトルだったのでつい気になり尋ねる。

 俺の問いかけに彼女は本から顔を上げ、ぱちりと二重の瞳と目が合った。


「ええ、とても面白いですよ。あなたのそのシリーズが読み終わったら読みますか?」


「ん?ああ、その時は借りるわ」


 特に断る理由もないし、彼女が勧めるのだから面白いことは保証されているので素直に肯いた。


「年末年始は何か予定あるのか?」


 会話を始めたついでに前から気になっていたことを聞いてみる。

 前に話した時は冬休み中特に用事はないと言っていたが、もしかしたら実家に帰るなどの用事があるかもしれない。


「……いえ、特にはないです」


 だが、案の定というか予想通りというか冷めた声でそう返された。

 少しだけ影を落とした表情に聞いてしまったことを後悔する。それと同時にこれまで薄々察していたことが事実だと確信した。


 高校生で一人暮らしをしている人はほとんどいない。それなのに一人暮らしをしているということは何らかの理由があるはずだ。

 普通なら実家に帰ったりするはずなのにそれをしない。親と何かがあるのは間違いないだろう。

 だがそれを聞くのは不躾で失礼だ。それ以上尋ねることが出来ず、重い沈黙が部屋に漂う。


「……あなたこそ、何か用事はあるのですか?」


 いつもよりもさらに少し冷めた声が耳に届き、彼女の落ちこみようが伝わってきた。


「あるぞ、大事な用事が」


 両親に聞いてみたところ今年は日本に来る予定はないという。

 時々連絡は来るので、向こうでなんとか無事にやっているのだろう。

 両親以外にも特に誰かと会う予定もないので、年末年始の予定は真っ白だ。

 だが、あえて大袈裟に用事があると振る舞った。


「なんです?」


「こうやって本を読むという大事な用事がな」


 心なしか沈んだ彼女をこれ以上見ていられなくて、おどけるように肩を窄めて零す。


「……相変わらず本が好きですね」


「ん、まあな」


 一瞬きょとんと固まった後、さっきまでの冷えた表情からほんのりと緩む。

 そのまま呆れたように、それでいて可笑しそうにクスッと笑った。


 沈んだ様子が消え、ふんわり微笑んだ彼女の様子に安堵してほっと心の中で息を吐く。

 彼女は何かを察したように、優しげな笑みで俺の方を見つめてきた。


「……あなたは優しい人ですね」


「なんでだよ」


「私が落ち込んだから、元気付けようとしてくれたのでしょう?だから……」


「別に、俺がしたかったからしただけだ。礼は要らない」


 礼を述べて頭を下げようとしてくるので、素っ気なく止める。

 もともと俺が彼女の傷に触れたのが原因なのに、礼を言われる筋合いはない。

 それに自分のしたことに感謝されるのは気恥ずかしかった。


「では、私もお礼を言いたいので言わせてください。ありがとうございます」


 だが、そう言われては何も言い返すことが出来ない。

 恥ずかしさを誤魔化すようにそっぽを向いて、大人しく彼女の礼を聞いた。

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