第33話 バイト先の彼女からのアドバイス

 クリスマスプレゼントを斎藤に贈った日の夜、バイトがあったので勤務していた。


 贈ったシュシュは想像以上に彼女に似合っていて、未だに脳裏に彼女のシュシュをつけた姿が焼きついている。

 自分の贈ったプレゼントで嬉しそうにはにかんでいたのを思い出すと、なんだか少しむずがゆい。


 あんな姿が見られたのはある意味前にくれた柊さんのアドバイスのおかげでもあるので、お礼を言うことにした。

 

「柊さん、アドバイスありがとうございました」


「はい?」


 心当たりがないのか、不思議そうに首を傾げてこっちを向く。

 黒縁メガネの奥の瞳はきょとんと大きくなっている。


「柊さんにアクセサリーがおすすめと言われて、前話した彼女にクリスマスプレゼントを渡したら喜んでもらえたので」


「ああ、なるほど。それはよかったですね」


 俺の説明で理解したらしく、納得したように肯いた。


「はい、シュシュをあげたんですがとても似合ってて可愛かったです」


 ピクッと身体を震わせて、ちらっと視線を送ってくる。


「……そんなに似合っていたのですか?」


 少し何かを期待するような明るい瞳と目が合う。

 どこか言いにくそうに、でも聞きたい欲求を抑えきれないような、そんな声でおずおずと尋ねてきた。


「それはもう。黒髪に白いシュシュでとてもその色の違いが際立ってよく映えて、思わず見惚れてしまいました」


 今、思い出してもあの美しさは形容し難い。

 光で艶めき煌めく黒髪に対照的な白いシュシュ。ぱっと見の印象だけで目を惹かれるし、強く脳裏に残る。

 普段飾りをつけない彼女だからこそ、より一層魅力的だった。


「そ、そうですか」


 ほんのりと頰を色付かせて、目をうろうろと彷徨わせ始める。

 そのまま居心地の悪そうに少しだけ身体をもぞもぞと動かした。


「彼女の髪って本当に綺麗なんですよ。あんなに綺麗な髪なら何もしなくても十分魅力的なんですが、飾りがあるだけさらに綺麗に見えるんですよね。思わず撫でたくなっちゃいました」


 一度話し始めるとなかなか話すのをやめられず、つい彼女の魅力を語ってしまう。

 本人に言うのは恥ずかしいがあれだけ可愛いとやはり誰かには言いたくなる。

 かといって学校の人には言うわけにはいかないので、そういう意味でも柊さんは都合が良かった。


 彼女が聞き上手なのもあるかもしれないがあまり遠慮する必要がないので、すらすらと思っていることを話してしまう。


「……撫でたいのですか?」


「ええ、まあ。あんなにさらさらな指通りの良さそうな髪は見ていて撫でたくなりますね」


 その他に彼女には小動物的な可愛さがあるからという理由もあるが、あんなに綺麗な髪はあまり見ないので一度は触ってみたい。

 邪な気持ちであることは分かってはいるが、彼女の黒髪を見ると触れたい気持ちがたまに湧いてくるのだ。


「……す、少しくらいならいいんじゃないですか?」


 ちらっと上目遣いにこっちを向くと、噛みながら上擦った声で小さく零した。

 柊さんの衝撃的な発言に、思わず目を大きく見開く。


「いやいや、異性ですのでさすがに撫でられませんよ」


 そりゃあ、同性なら許されるかもしれないが一応これでも異性なのだ。

 互いにそういった恋愛感情はないとしても、触れるのはあまり良くない。


「でも、その人はあなたのことを信頼して一緒にいるんでしょうし……そのぐらいなら別に嫌がりはしないと思いますよ?」


 確かに触られるのは嫌ではないと前に言っていた。

 ある意味俺のことを異性として見ていないからそう発言したと思っていたが、もしそうだとしたら撫でるぐらいはいいのだろうか……?


「いや、でもですね……」


 やはり異性に触れるというのはそれだけ特別な意味を持つと思っている。

 触れるのは恥ずかしいし気後れするので、素直に肯くことは出来なかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る