第32話 学校一の美少女とクリスマス
(くそっ、いつ渡せばいいんだ……)
あーんをされかけた次の日、つまりクリスマスの日、いつものようにテーブルで斎藤と向かい合うように座って本を読んでいる。
普段なら周りのことなど忘れて読書に集中出来るのだが、今日は全く集中出来ずにいた。
その原因は俺のリュックの中にある紙袋にある。昨日ケーキをクリスマスプレゼントとして貰ったお礼として一つプレゼントを用意したのだ。
だが、そもそも人に何かを贈ることに慣れておらず、さらに相手が異性となってはなんとなく恥ずかしいし緊張する。
結果、いつ渡すべきか分からず、彼女の様子を伺うことに意識が割かれ本の内容に入り込めずにいた。
前回、彼女の誕生日プレゼントを渡すときも緊張したがやはり慣れるものではない。
俺が意識しすぎなのかもしれないが、クリスマスに異性にプレゼントを渡すというのはなんだか特別な気がする。
ただケーキのお礼をするだけだ。日頃お世話になってる分の恩を返すだけだ。そう思い込もうとしてもどうしても気になってしまう。
ちらちらと彼女の読書姿を見ていると、たまたま顔を上げた彼女と目が合った。
「どうしました?」
俺の様子がおかしいことに気付いたらしく、不思議そうにきょとんと首を傾げた。
くりくりとした愛らしい瞳がじっとこちらを見つめてくる。
一瞬誤魔化すか迷ったがここで誤魔化してはもう渡す時はないと思い、リュックから紙袋を取り出して彼女の目の前に置いた。
「……ん、これ、やる」
「え、あの……」
「昨日のケーキのお礼だから受け取ってくれ」
クリスマスプレゼントと言えば断られそうだったのでお礼と言って渡すと、目をぱちくりとさせて固まっていたが、おずおずと受け取ってくれた。
「開けてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
ゆっくりと丁寧に紙袋から小さめの包装された袋を取り出す。
シュルシュルと音を立ててリボンを解いて中のものを手に取った。
「シュシュですか。可愛いです」
ほんのりと表情を緩め、どこか嬉しそうに目を細めて手に持つシュシュを眺める。
選んだのは白を基調として薄い桃色と赤色の線が引かれたものだ。
今回は突然だったのであまり選んでいる時間がなかった。前回のバイト先の彼女のアドバイスに従って形に残るものを選んでみたが、気に入ってもらえたらしい。
最近部屋で髪を縛っていることが多いので選んだのだが、満足してもらえたようで内心でほっと安堵した。
「つけてみても?」
「ん?ああ」
ちらっとこっちを向いて尋ねてくるので許可を出すと、大事そうにシュシュで髪を縛り始めた。
さらさらと指通りの良さそうな綺麗な髪が揺れる。よく手入れされ艶やかな髪は光を反射し、きらきらと見惚れるほど美しく煌いた。
「ど、どうですか?」
縛り終えた彼女は少し声を上擦らせ、少し恥ずかしそうに尋ねてくる。
ほんのりと頰を色づかせ、こちらの様子を伺うように上目遣いで見てくる姿は彼女の優れた容姿と相まってとても魅力的だ。
「ん、似合ってる」
こういう時は褒めるのがマナーと言うし、実際彼女の黒髪に白のシュシュはよく映え似合っている。
これまで髪に飾りがついているのを見たことがなかったので、映える白があるおかげでいつも以上に髪に目を惹かれた。
「そ、そうですか。それならよかったです」
噛みながらもほんのりとはにかんで小さく笑みを零す。俯き加減に微笑む姿は嬉しそうで、見ているこっちまで心が温かくなった。
「あ、待て」
「な、なんですか……?」
髪を縛るときについたのだろう。彼女の髪にほこりがついていたので机から身体を乗り出して手を伸ばす。頭に手を近づけると彼女はビクッと身体を震わせ固まる。そのまま恥ずかしそうに頰を赤らめ上目遣いにこっちを見てきた。
そんな彼女の様子を横目に髪に触れる。指先からは想像していた以上に柔らかい感触とほんのりとした温かみが伝わってきた。
自分の手の下で小さく固まっている彼女を見るとなんだか無性に撫でたくなってくる。そんな邪な気持ちを抑えてほこりを取る。
「ほこりがついてた」
取ったほこりを見せてやると、まだ頰を薔薇色にしながらも納得したような表情を浮かべた。
ほこりを取るためとはいえ、ここまで近づいたことはなかなかない。至近距離で改めて見るとやはり彼女はとても可愛らしくそして綺麗だ。
ぱっちりとした二重の綺麗な瞳に柔らかそうな唇。長い睫毛は今は伏し目がちに下を向いている。整った顔立ちは魅力的で惹きつけられ見ていて飽きそうにない。
そんな彼女の極め付けが美しい髪だ。光を反射し頭上には綺麗な天使の輪が見える。さらさらと揺れて煌く髪に今は白のシュシュが結ばれ、より一層その魅力は増していた。
「うん……やっぱり似合っててすげえ可愛いな」
「あ、ありがとうございます……」
彼女の可愛さをしみじみ感じ、思わず想いが口から零れ出る。
俺の言葉に彼女はちらっと上目遣いにこちらを見て視線をうろうろと彷徨わせる。
どうした?と思った瞬間には彼女はまた瞳を伏せて俯いてしまった。
「わ、私、飲み物を入れてきます」
「え?」
俯いたことで見えるうなじまで赤いなと思えば、そう言い残して席を立つ。突然のことに呆然としたまま彼女がそそくさと台所の方へ向かうのを眺めた。
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