第24話 学校一の美少女は変わらない

「……これ、ありがとな」


「いえ、次の本はこれですね」


 今日はバイトがあるため図書館で話しかけた。

 もはや慣れたもので、こうした本の受け渡しも当たり前のように感じる。


 昨日の誕プレのことがあったので話しかける最初こそ緊張したが、彼女はいつも通りだった。

 平然とした様子で鞄から本を取り出して渡してくれた。


 彼女の表情は普段の無表情で昨日見せた優しい笑顔は一欠片もない。

 もちろんこれが普通の彼女なのだが、なんだか昨日見た笑顔が夢のように思えてくる。

 まあ、昨日見たような表情をそう何度も見せられたらたまったもんじゃないので、このままでいいのだが。

 いつもと変わらない態度の彼女に心の中でほっと安堵した。


 改めて見てみるとやはり彼女の容貌は優れている。

 ぱっちりとした二重の瞳に、筋の通った鼻、柔らかそうな唇、そしてさらさらと指通りの良さそうなよく手入れされた煌めく黒髪。

 多くの男子が恋を抱くのも肯けるが、昨日のように妙に心臓がうるさくなることはない。


 昨日は多少動揺したし、彼女を見て可愛いと思ったことは否定しない。

 だが昨日の動悸はあの笑顔で彼女が美少女であることを実感したことで起こったもので、男子なら誰でも起こるものだろう。


 彼女に対して恋愛感情を抱いていないことを再認識して、内心でそっと息を吐いていると、彼女の手元にある本に気がついた。

 開かれたページの間からきらりと煌めくしおりが見える。


「……なんですか?」


 俺の目線に気がついたのかいつものツンとした声で尋ねられる。

 その声はいつものように冷めた声だがなんとなく警戒する壁は薄れたような柔らかさもあった。


「いや、そのしおり使ってくれているんだなって思ってな」


 昨日の彼女の言葉が嘘だとは思っていないが、こうやって現実に使っている様子を見せられると、なんだかむず痒い。

 お世辞じゃなくて本当に気に入ってくれたことが伝わってくるので、ほんのりと心が熱くなる。


「別にいいでしょう。使うのは私の勝手です」


「ああ、好きに使ってくれ」


 相変わらずの可愛げのない返事だがそれが彼女らしい。肩をすぼめて思わず苦笑してしまう。

 言っていることは前と変わらず素っ気ないが、以前よりも刺々しさがなくなった気もする。

 友人ということで多少は心を許してくれているのかもしれない。


「……言っておきますけど、もう私のものですから返しませんからね?」


「そんなこと言わねえよ」


 俺がしおりを眺めているのを勘違いしたのか、しおりをさっと手で隠した。

 よほど気に入ってくれたのだろう。取られまいとしおりを隠す姿がなんだか面白く、つい笑ってしまった。

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