第23話 学校一の美少女へのプレゼント
バイト先の彼女のアドバイスもあって、斎藤への贈り物を選択した俺は、誕生日当日、微妙に緊張しながら斎藤が来るのを図書館で席に座りながら待っていた。
普段なら図書館に閉館時間までいて、その後彼女が出て行ったのを目安に自分も出発するのだが、その過程のどのタイミングでこのプレゼントを渡すべきか迷う。
しばらく経つと彼女はやってきた。ちらっとだけこちらを見たので目が合うがすぐに逸らして椅子に座ってしまった。
自分の誕生日だというのに彼女はいつも通り読書をしている。特に何かを意識している様子はなく、自然体で過ごしていた。
そこまで平然とされるといつ渡すべきか分からず、思わずため息が出る。
だがこういうものは勢いが大事で、ぐだぐだ考えていても仕方ない。ぐっと握り拳を作り覚悟を決めて、彼女に話しかけにいくことにした。
ふと読んでいた本から顔が上がる。
近づいてくる気配と紙袋に入れたプレゼントと擦れる音で気がついたのだろう。
透き通るような綺麗な二重の黒い瞳がこちらを向き、そして手に持つ紙袋に移る。
「これ、やる。お前の誕プレ」
やはりプレゼントを渡すというのは緊張するし、意識していないとはいえ異性に渡すのは少し恥ずかしい。
突き放すようなぶっきらぼうな言い方になってしまったが、紙袋を彼女の目の前に置いた。
「えっと……ありがとうございます。もしかして生徒手帳で知りましたか?」
「ああ、たまたま覚えていてな」
突然渡されたら驚くかと思ったが、色々察したらしくあまり驚いた感じはない。
それどころかどこかそわそわとしている。
ちらちらと目の前に置かれた紙袋に目がいっていて、興味を示してくれているみたいだ。
「……開けてみてもいいですか?」
「ああ、いいぞ」
頷くと、彼女はおずおずと紙袋を開けて中を覗き込む。
なんというか、渡したプレゼントを目の前で開けられるのは、居心地が悪く微妙に緊張する。
中に入れておいたのは彼女の望み通りの本だ。新刊なので本屋に行けば、1番目立つところに置いてありすぐに見つかった。
内容についてはあまり知らないが、ネットで調べた感じだとそれなりに好評だったので大丈夫だろう。
「前に聞いたときに言ってたやつだ」
「そう……みたいですね。読むのが楽しみです」
取り出した本を見てほんのりと微笑んでくれたので自然と自分も口元が緩む。反応としては良さそうだ。
嬉しそうな様子にほっと緊張していた胸を撫で下ろす。
本の他にもう一つバイト先の彼女に提案された通りのものを入れておいたのだが、目の前でだとなんとなく気恥ずかしいので、後で気づいて欲しかった。
だが俺の薄い望みは届くことなく、彼女はガサガサと袋の中をさらに探し始めた。
俺が入れておいたもう一つのプレゼントを見つけたらしく、小さな小袋を取り出す。
一応贈り物用として包装してもらったので、その袋はピンクを基調とした白のラインが入った袋にリボンが付けられている。
彼女がそれを丁寧に開けているのを眺めているとますます心が落ち着かなり、つい逃げ出したい気持ちに駆られる。
もういいや、今日はさっさと帰ろう、そう思ったときに彼女は中身を取り出していた。
「……しおり?」
二重の綺麗な目をぱちくりとさせて、手に持ったしおりを見つめている。
彼女が手に持つしおりは金属製のもので、彩り豊かなガラスが散りばめられキラキラ煌めくものだ。
バイト先の彼女からアクセサリー系がいいとアドバイスはもらったものの、買いに行ってよくよく考えると、親しくない異性に渡すのはあまり好ましくないものだと気付いた。
俺的には友人だと思っているが、装飾品的なアクセサリーを渡してもいいぐらいに親しいかと言われると微妙である。
最初は諦めるか迷ったが、やはり彼女には綺麗なものを渡して喜んで欲しかった。
何かないか探し回って見つけたものがこれだ。
女子しかいないような店で買ったので、ラッピングを頼んでいる間、店内の人からちらちらと見られ非常に居心地が悪く恥ずかしかった。
なんとか耐え忍んで店を出たときには、通常の買い物の倍は疲れていたかもしれない。
「あんまりしおり使っているところ見たことがなかったから……」
ついいたたまれなくて、ぼそっと誰にいうでもなく理由を呟く。
こういうのは慣れていなかった。異性にプレゼントなんていつ以来だろうか?一回もあげたことがないかもしれない。
選んだ贈り物に自信がなく、気に入ってくれたかどうか気になり彼女の様子を伺う。
目をぱちくりとさせて固まっていた彼女は、ゆっくりと口元を緩め、子供を見守るような優しげな表情になる。
ほんわりと柔らかくて包み込むような優しい笑みが彼女の顔に浮かんでいた。
「……凄い綺麗です。大事にします」
しみじみとした思いやるような声でそう言って、手に持っていたしおりを俺から隠すように両手で握りしめた。
大事で大切なものを取られまいとするような仕草だ。
そのまま目を伏せて、手元にある煌めくしおりを見つめている。大事そうに眺める彼女の瞳にガラスで色付いた光が映り込む。
それは彼女を神秘的にさせ、図らずも息を飲み込んだ。
普段の冷たい無表情はそこにはなく、これまで見たほんのりとした微笑みよりもさらに柔らかい穏やかな笑顔があった。
きらりと煌めくしおりを眺める彼女は大人っぽく綺麗だが、それ以上に彼女のあどけない純真無垢な笑顔が可愛らしい。
(くそっ)
そんな表情を見せられれば、さすがに意識してしまう。自分の前で見せてくれた、その特別感に否応なく胸が高鳴る。
目をへにゃりとさせ、慈しむような優しい笑顔は誰をも魅了させるほどに可愛らしい。それは自分も例外ではなく、不覚にも見惚れてしまった。
顔に熱が篭り始めるのが自分でも分かる。確かめるように指先で頰を触れてみれば、明らかにいつもより熱い。
これ以上はもう見ていられず、ついっと目を逸らした。
貰ったしおりに気がいっているおかげで、彼女が俺の様子の変化に気付いた様子がないことは救いだった。
彼女はしおりを光に透かしてその光の変化を楽しんでいるらしく、口元が少し緩んでいる。
嬉しそうに目を細めて眺めている姿がまた可愛らしくて、さらに顔に熱がこもる。
「……貰ってくれて安心した。断られるかもしれないって思ってたから」
自分の気持ちを落ち着かせる意味も込めてなんとかその言葉だけを吐き出す。
普段の学校での彼女の態度を考えたら、本はともかくこういった形に残る物は断られるかもしれないと思っていた。
結果としてはこんなに喜んでくれたので大成功と言えるだろう。
「そんなことはしませんよ。……知らない人のは怖いので遠慮させて貰っていますが、あなたは……少しだけ特別な友人なので」
「なっ」
彼女はほんのりと頰を色付かせ、目を伏せるようにしてぽつりと呟く。
恥ずかしいことを言っている自覚はあったのか、そのままぷいっとそっぽを向いて俺から顔を背けてしまった。
彼女の言葉が異性として言われているわけではないことは頭では分かっていても、『特別』という言葉に勝手に心臓が高鳴っていく。
「……それはどうも」
動揺し、頭が真っ白になる中でそれしか言うことが出来なかった。
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