第21話 学校一の美少女の欲しいもの
斎藤には凄く感謝している。あれだけ何度も本を貸してもらっているし、以前は本は一冊だけだったが今では毎日2冊貸してもらっている。
前と違って持ってくる手間がなくなったとはいえ、ほぼ毎日男が家に訪ねてくるようになったのだ。それはそれで十分ストレスにもなるだろう。
それでもきちんと貸してくれるので、その誠実さに最近はもう頭が上がらない。
それだけお世話になっているので、何かお返しをしたいとは常々思っていた。
もはやお世話になりすぎて、一度のお返しでは到底返せなさそうだが。
そしてそのお返しをする絶好の機会というのが、彼女の誕生日だ。
普通にお礼として渡しても断られそうだが、プレゼントと託けて渡せばさすがに受け取ってくれるだろう。
彼女の誕生日は知っている。たまたまだが、最初生徒手帳を拾った時に自分の誕生日のちょうど2ヶ月後だったので覚えていた。
この絶好の機会を逃すわけにはいかない。
「なあ、何か欲しいものとかあるか?」
お礼として何かを贈る以上、相手には喜んで欲しいものだが、残念ながら彼女の気に入りそうなものをほとんど知らない。
そんな中で考えたところで、何かいいものを思いつくはずもないわけで、取れる選択肢は聞くしかなかった。
ただ聞き方はもう少し考えるべきだった。なんのひねりもない単直な聞き方をしてしまったせいで、彼女は訝しげな目を向けてくる。
「なんですか、突然」
いつもの冷たい声に警戒した緊張が混じっているのが伝わってくる。
「いや……あんまりお前の好きそうなものとか知らないから」
「別に知らなくていいでしょう。教える意味がありません」
「そう言うなって。俺の好奇心だ。教えてくれよ」
「……分かりました」
少ししつこかったかもしれないが頼み込むと、はぁっと小さくため息をついてうなずいてくれた。
幸いな事に自分の誕プレのために聞かれている事に気付いた様子はない。
それもそうか。彼女にとっては、俺が誕生日を知っているとは思っていないのだから察しようがない。
「んー」
真剣に考えているらしく腕を組んで目線を下げている。
だが思いつかないのか、いつまで経っても口を開かない。
「なんかないのかよ」
「そうは言われてももともと私物欲少ないですし……」
彼女としてもなんとか何かを搾り出そうとしているが本当に思いつかないらしく、眉をへにゃりと下げて困った様子だ。
「んー……あ、ありました。一つありました」
「お、なんだ」
「□□という新刊の本です」
「……本かよ」
彼女といえば彼女らしい答えに思わず呆れてしまった。
華の女子高生が望むものとしては些か渋い気がする。普通なら化粧品やアクセサリー、バッグなんかを望みそうなのに、まさか本とは。
想定外の要求に苦笑するしかない。
「……自分で買わないのか?」
「別に買えなくはないですが、新刊ですから面白いか分かりませんし、ハードカバーなので高いんですよ」
「なるほどな」
彼女としては別に誕プレにもらうと思っていないから、ただ思いついた欲しいものを言ったのだろう。
だが誕プレに本というのはいかがなものか。渡せば喜んでくれるだろうが、なんか違う気がする。
結局、彼女の嗜好や欲しいものが分からず途方に暮れてしまう。彼女は困り果てた俺を不思議そうに首を傾げて見ていた。
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