第20話 学校一の美少女は期間限定に弱い

「何してんの、お前」


 先に学校を出ているはずの斎藤はなぜかアイス屋の看板の前で立ち止まっていた。

 一体いつからいるのだろうか。

 彼女に先行させるため、出発する時間は5、6分遅れたはずなのに追いついたということは、歩く速さを考慮してもかなりの時間看板を見ていたことになる。


「あなたを待っていたんです」


「は?」


「期間限定のアイスが今日までみたいなんです。一緒に来てください」


「なんで俺が……」


「前に誰も一緒に行く人がいない時は一緒に行ってやるって言ってくれましたよね?」


 言われて思い出す。確かに言った。前回一緒に来た時にそんな感じのことを言った。

 その時は気休め程度にと思って言ったつもりだったんだが……。


「確かに言ったけど……。なんで1人で行かないんだ?」


「1人は……緊張してしまいます……」


 普段の強気の彼女と違い少ししおらしい姿は無性に可愛く、そして面白くつい笑いが溢れる。


「なに笑ってるんですか?」


「いーや、なんでもないよ。じゃあ行こうぜ」


 不慣れな空間に行ってまで食べたいとはよほど気に入ったらしい。あるいは期間限定に惹きつけられたか。

 やっぱり斎藤も女の子ということだろう。

 行きたい理由に妙に納得して、それなら一緒に行くのも仕方ないと思ってしまった。


「絶対馬鹿にされている気がします」


 俺に笑われたことを気にしているのか、頰を少し膨らませてむっとしていた。


「今回は私が注文してきます。あなたは何がいいですか?」


「お、ありがとな。じゃあ、抹茶で」


「分かりました」


 俺が頼むとすたすたとレジの方へ行ってしまったが大丈夫だろうか?

 一応メニュー以外にも頼むものなど色々あるのだが。


「え!?と、トッピング!?ど、どうしましょう……」


 案の定、彼女の慌てふためく声が聞こえて来る。

 しどろもどろになりながらなんとか注文をしていた。


 どうにか注文を終えたらしい彼女は何か一仕事を終えたような顔をしていた。


「△△番の方ー」


 俺たちの番号を呼ばれ、アイスを取りに行く。

 慣れていないせいかアイスを持った彼女の動きがぎこちない。

 微妙に緊張した面持ちで運ぶ姿に思わず吹き出した。


「なんですか?」


「な、なんでもないから気にすんな」


 緊張しているせいか強張ったままの彼女がおもしろかっただけだ。

 ただ、これ以上笑うと本気で睨まれそうなので、やめておく。


 店内に置かれた椅子に座ると、彼女も隣に腰掛けてくる。

 そこでも多少動きがぎこちなかったので笑いそうになったものの、隣にいるので流石に控えておいた。


 椅子に座った彼女は心なしか目を輝かせて、手に持つアイスを見つめている。


「じゃあ、食べるか」


「はい、いただきます」


 食事の挨拶を言うと、彼女はなんだか慎重な手つきで一口すくって口に運んだ。


 期間限定物というのはたまに外れの味があるのだがどうだろうか?


 彼女の様子を伺うとどうやら当たりだったらしく、口にした彼女は目を丸くして、そしてほのかに口元を緩めた。

 最近は以前ほど無表情である時が少なくなっている気がする。


 一口、また一口と口にアイスを運ぶたびに目をヘニャリと細め、緩んだ頬をほんのりと紅潮させ続ける。


「……?なんですか?」


 つい凝視しすぎてしまった事に気付いたらしい彼女は不思議そうにしてこてんと首を傾げる。


「随分美味しそうに食べるんだなと思って」


「勿論です。だって美味しいですから」


「……そうか」


 美味しいです、とほんわりと微笑んだ彼女には、花が舞い散るような美しさがあって非常に目に毒だった。

 なんだか見ていられなくて、ついっと目を逸らしてしまった。

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