第17話 学校一の美少女にとって俺は……
「昨日はありがとうございました。本当にお世話になりました」
いつものように図書館で待っている斎藤に本を渡すと、ぺこりと頭を下げて礼を言われた。
「はいよ、それで調子はどうだ?」
「おかげさまで。まだ本調子ではありませんが日常生活をする分には問題ありませんよ」
「そうか、ならよかった」
彼女の顔色は昨日と比べて随分と良くなっているので、ある程度回復はしたのだろう。ただ少し鼻声なので彼女のいう通り完治とまでは言えなさそうだ。
「ええ、あとこれがいつもの本ですね」
そう言って俺の大好きなシリーズの新しい本を一冊手渡してくる。
本当にこのシリーズは面白い。何巻であっても思いもよらない話がポンポン出てくるし、幾重にも張り巡らされた伏線がどんどん回収されていく。
そんな話を読んでいれば止まらなくなるわけで、今では読むスピードが向上し、一冊を読むのに1日もかからなくなった。
そのせいか最近は満足できず少しだけ読み足りなさを感じる。
「ありがとな。……最近一冊だとすぐ読み終わっちゃうんだよな」
特に伝えようと思って言ったわけではない。
ただポツリと愚痴でも言うように自分の思いが漏れ出てしまったのだが、予想以上に声が大きかったらしく斎藤は耳をピクリとさせた。
「私に2冊持って来いと?」
俺の言葉を聞いて、彼女は眉をわずかにひそめる。
「流石にそんなことは言わねえよ。今でさえ感謝してるんだ。これ以上重いものを毎日持って来させるとか、申し訳なさで死ねる」
妙な勘違いをされたので肩を竦めてしっかりと否定するが、彼女は腕を組んで考え込んでいる。
視線を下げて、悩んでいるらしく俺と目が合うことはない。
「……じゃあ、一緒に帰りますか?」
「はい?」
じっと考え込みようやく口を開いた彼女はとんでもないことを口にした。
一瞬言葉の意味が理解できず、変な声が出てしまう。
思わず溢れてしまった独り言に対して予想外の提案がされて戸惑うばかり。
「私の家まで来てもらえるなら、2、3冊くらい渡します」
「いや、それは……」
彼女の提案はありがたい。ありがたいのだが……。
普通、知り合いとはいえさほど深く関わっていない男と一緒に帰ろうとするだろうか?
その方法なら何冊も貸せるとは言えども、相手は異性であるし、知り合って間もない。抵抗を感じたりしないのだろうか?
それに彼女と一緒に帰ればいずれ必ず噂になる。どんなに隠していてもどこかのタイミングでは必ず誰かに気付かれ、話のネタにされることは間違いない。
あまり目立ちたくない俺としては、一緒に帰るなんて選択を取れるはずが……。
「いいんですか?これまでよりも沢山読めるようになりますよ?」
渋る俺にさらに迷わせるような悪魔のささやきを呟いてくる斎藤。
彼女は優しさのつもりで言っているのだろうが迷わせるのはやめて欲しい。
ダメだとわかっていてもそう言われたら、頷きたくなってしまう。
「いや……でもな……」
「じゃあ、こうしましょう。別に一緒に帰る必要はありませんし、帰るタイミングだけ合わせて私の後ろをついてきてください」
俺が渋っている理由を察したのか、俺の懸念事項を解消するような提案をしてくれた。
そう言われてしまえば、俺が断れるはずがない。
あの本は面白いので読めるなら沢山読みたいし、そんな魅力的な提案をされては頷くしかなかった。
「……それで頼んだ」
「はい、いいですよ」
「ついていくからってストーカーで訴えるなよ?」
「もう、そんなことはしませんよ」
肩を竦めて冗談を言うと、なに言ってるんですか、といった不満げな眼差しを向けられてしまった。
「でも、いいのか?こんな男に自分の家の場所を知られて。もしかしたら何か危ないことされるかもしれないぞ?」
「したらその時は然るべき処置を取るだけなので」
「あ、左様でございましたか」
目を細め鋭く睨まれれば、そんな悪いことを出来るはずがない。いや、もともとするつもりはないが。
「それにあなたはそういうことしないし出来ないでしょうし」
「信頼してくれているのか?それはどうも」
「多少は信頼していますが、あなた私に対して興味がないでしょう?それが主な理由です」
「あー、そっちか」
ばれててもおかしくはないと思いつつも、いざ面と向かって言われると苦笑してしまう。
「最初の時にお礼とかこつけて親しくなろうとしてきたなら、私も関わる気はなかったんですけどね」
「安全な人と思ってもらえたようでよかったよ」
「はい、おかげさまで」
こうして本を沢山読める権利と学校一の美少女と一緒?に帰る権利を得たのだった。
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