第18話 学校一の美少女の連絡先

「じゃあ、お前の家に行くか」


「ええ……あ、ちょっと待ってください」


 あのシリーズを早く読みたくて斎藤を急かすと呼び止められた。


「どうした?」


「あの……連絡先教えて下さい」


 少し言いにくそうにしているあたり、連絡先を聞くのに慣れていないのだろう。あるいは異性に連絡先を聞く意味を理解していて、抵抗があるのかもしれない。

 もちろん彼女が俺のことを異性として認識しているなんて勘違いはしないが。


「は?なんで?」


「毎日一緒に帰れるわけではないでしょう?用事がある時は連絡して下さい。その日は学校に一冊持っていきますので」


「ああ、なるほどな」


 確かに伝えたい時があるときに伝えられないのは不便だ。もし連絡する手段が有れば彼女ももう体調が悪いときに来ることもないだろう。

 それなら、と思い某メッセージアプリのQRコードを見せる。その画像を読み込むようにかざして、彼女は固まった。


「ありがとうございます……っえ?田中湊?」


 ぱっちりとした二重の瞳を大きく見開いて、確認するようにスマホを二度見している。


「ん?ああ、そうだぞ。言ってなかったか?」


「……ええ、聞いてませんよ。話すようになっても全然自己紹介してくれませんでしたし、こちらとしても特に興味なかったので」


 何かを確認するように何度か俺をチラチラとみた後、ツンとしたいつもの冷たい声が返ってきた。


「そうかよ」


 本当に他人に興味がない奴だ。相変わらずの彼女らしい考えに苦笑してしまう。


「じゃあ、改めて俺が田中湊だ。よろしくな」


「はい、よろしくお願いします」


 こうして俺たちは改めて紹介し合った。


 それにしても本当に不思議な話だ。学校でも有名人な彼女と本来なら一切関わり合うことがないはずなのに、それが今では連絡先を交換するようになるとは……。


 嬉しいような面倒くさいようななんとも言えない複雑な気分で交換した彼女のアカウントを眺める。


「どうしました?」


「いや、この学校の男子が喉から手が出るほど欲しがってる連絡先がこんなに呆気なく手に入るなんて、と思ってな」


 交換してから思ったが、学校一の美少女の連絡先なんてそう簡単に手に入るものではない。ましてやその相手が塩対応で有名でほとんどの人に教えないとなれば尚更だ。

 今までよりもさらに面倒なことになっている気がして、心の中でため息をつく。


「広めないでくださいよ?」


「しねえよ。俺が持ってるって知られた時点で俺が睨まれるわ。そんな視線には耐えられねえよ」


 クラスで彼女に向けられている視線が敵意をもって自分に向くと思えば、そんなこと出来るか。

 そもそも彼女は必要に迫られたとは言え、自分をある程度信用して教えてくれたのにその信頼を裏切って勝手に広められるはずがない。


「じゃあもう行くぞ。早く読みたい」


 さらに面倒になったことには目をつぶり、とりあえず本を楽しむことにした俺は、彼女を急かす。


「もう、本は逃げませんよ?」


 彼女はそんな俺の様子に口元を少し緩めてクスッと笑った。

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