第12話 学校一の美少女は甘いものが好き

 俺は斎藤と2人で帰り道を歩いていた。

 というのも、斎藤を助けたのはいいのだが、別れる機会を逃してしまったからだ。


 助けた時点で別れれば良かったのだが、不覚にも動揺していたせいで、そのことに気付くのが遅れてしまった。

 一緒に帰るなんてことは1番避けるべきことなのだが、こうなってしまっては仕方がない。

 せっかく学校一の美少女と一緒に帰れるのだ、その幸運に感謝でもしつつ楽しむとしよう。


 周りに人がいないか気を配りつつ歩き続けた。

 しばらく歩いていると、突然斎藤が足を止めた。


「どうした?」


 突然止まったので何事かと思い彼女の方を向くと、立ち止まった彼女は何かをじっと見つめている。

 その視線の先には、移動式のアイス屋さんがあった。


「食べたいのか?」


「えっと……はい。でもああいったものはあまり食べたことがないので……」


 食べたそうにアイス屋を見ていたのでそう尋ねると、驚きの言葉を口にした。


「は?アイス食べないのか?」


「いえ、あまり外出して遊ぶことがないので、外でアイスを食べる機会がないんです」


 その返事を聞いて妙に納得した。

 確かに俺自身もあまり外出はしないので、外で何かを食べるといった機会は少ない。

 ただ、それでもたまには友人と出かけて食べるので、それすらしたことがない彼女の境遇が少しだけ不憫に思えた。


 クラスでは多くの女子と話してはいるが特定の誰かと親しくしている様子を見たことがない。

 彼女の容姿や学力の優秀さ、そういったものしか見ないで近づいてくる人しかいないのかもしれない。あるいはそういう風にしか彼女には見えていないのかもしれない。

 だが彼女の性格、中身を見て親しくしてくれる人は必ずいるはずで、そういった人に早く出会って欲しいとふと思った。


「……そうか、じゃあ、いい経験になるんじゃないのか?ほら、行こうぜ」


 今すぐにそんな親友なんてものは見つかるはずもないので、せめて今は楽しんでもらおうと彼女を連れてアイス屋へと向かった。


 このアイス屋はこの地域では結構有名な店で、色んな種類のアイスがあり、幅広いトッピングも出来るので彼女の気にいるものもあるだろう。


 連れて行ってメニュー表の前に立たせた斎藤はじっくりとメニュー表を吟味している

 透明感のある黒い瞳は、さまざまなアイスの写真に釘付けになっていた。


 いつもはあまり感情を見せない斎藤だが、この時はどこか生き生きとして輝いているように見える。


(良かった、楽しんでくれているみたいだ)


 心なしか落ち着きがないような彼女は、少しの間メニューを見てから「じゃあこれとこれがいいです」と控えめに2種類のアイスを指差す。

 窺うようにこちらを見てくる彼女に了承すれば僅かに瞳が輝いた。


 ほんのりと表情も嬉しそうなので、俺はうっすら苦笑を浮かべながらレジで自分のと彼女の分を注文した。


 彼女は少し待って出来たアイスを受け取ると、さらに顔をパァッと輝かせた。


 2種類のアイスをどちらから食べるか迷っているらしく、2つのアイスの間でスプーンを行き来させていたが、初めは王道のバニラに決めたらしい。

 プラスチックのスプーンで少しだけ掬って、小さな口に入れている。


 ちょこっとずつ口に入れる姿にどこか小動物的な愛らしさにも似た感覚を抱く。


 スプーンを口に咥えて美味しそうにへにゃりと目を細め、ほんのりとほおを緩めている姿が妙に可愛らしい。斎藤もやはり女の子なので甘いものは大好きみたいだ。

 普段大人びていて落ち着いた雰囲気を出しているが、今の彼女は年相応の雰囲気で、普段出ている壁は取り払われている。

 もぐもぐ、と小さな口でアイスを堪能している彼女に、無性に頭を撫でたくなってしまう。


「……なんですか?」


 じっと見過ぎたらしい。さっきまでの幸せそうな表情は無表情に戻り、眉をほんのりとひそめて睨んできた。


「いや、アイス好きなんだなと思ってな」


「……勝手に見ないで下さい」


 せっかく可愛らしいと思っていたのに、すぐツンとした態度になるのは相変わらず可愛げがない。


「相変わらずツンツンしてんな」


「別にいいでしょう?それとも甘えた姿でも見せて欲しいのですか?」


「いーや、そのままでいいよ。塩対応にはもう慣れたしな」


 冷たい声でそう言われれば、冗談でも見せて、なんて言った日にはなにを言われるか分からない。

 彼女の甘えた姿を見てみたい気はしなくもないが、別に今のままで十分魅力的だ。


「塩対応が怖くて多くの男子は話しかけにいかないが、俺は今のままが1番いいと思うぞ」


「ツンツンしているのに?」


「意外と気にしてたのな、お前。……なんていうかきちんと接すれば、お前がいい奴なのは分かるから、別に塩対応でも全然問題ないって話だ。そのうちこうやってアイス屋に一緒に来る友人もできるだろ」


「出来ますかね?」


「じゃあ、出来なかったらその時は俺が一緒に行ってやるよ」


 少し不安げな声で尋ねてくるので気休め程度になればいいと思い、そう言ってやる。


「……では、その時はお願いしますね」


 俺の言葉を聞いて一瞬、きょとんと目を丸くして固まる斎藤。

 その後クスッと笑ってほんのりと優しく微笑んだ。

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