第4話 バイト先の彼女に相談された
「へ?」
まさか相談を持ちかけられるとは思わず、間抜けな声が漏れ出てしまう。
「別に、ダメならいいです」
「い、いえ、驚いていただけなんで。いいですよ!悩み聞きますよ!」
俺が驚きで固まって返事をしなかったことを拒否ととったのか、ツンとした態度で諦めようとするので慌てて取り繕う。
予想外のことではあったが、彼女に頼られた以上は出来るだけのことはしようと気持ちを強くして耳を傾けた。
「……今日、知らない男の人に声をかけられて警戒したら、落とし物を渡すためだったんです。本当はその場で礼を言いたかったのですが、私呆気に取られてしまって……」
「つまり、その人に礼を言いたいから探して欲しいとかですか?流石にそれは……」
力にはなりたいがたったそれだけの情報ではどう考えても見つけようがない。
服装や年齢だけ分かっても見つけるのは厳しいだろう。
「いえ、同じ学校の人ということは分かっているので、自分で見つけるので大丈夫です。その人に明日お礼としてちょっとしたお菓子でも渡そうと思っているのですが、生憎男性の好みというのが分からないので、出来れば教えて欲しいです。異性に物を渡すといったことをあまりしたことがないので……」
「ああ、そういうことでしたか、なるほど」
改めて礼を言いにいこうとする姿はとても彼女らしい。
相手にあげる以上はそれなりに好ましいものがいいので、同じ男である俺に聞いてきたといった感じだろう。
出来るだけ彼女の参考になるよう頭を働かせて考える。
「まずは、あまり甘いものは避けた方がいいですね」
「甘いものはダメなのですか?」
俺の言葉に不思議そうにきょとんとした表情をする柊さん。
いつもの無表情と違った人らしい感情がのった表情はとても可愛らしい。
「いえ、甘いものがダメというわけではないですが、自分も含めて男子は甘すぎるものは苦手なので甘さが控えめなものがいいと思います」
「……なるほど」
真剣な表情でじっと俺の話を聞こうとする姿勢からは、ちゃんとその人にお礼をしたいという気持ちがとても伝わってくる。
「あとは、学校で渡すんでしょう、生ものは良くないのでケーキとかは避けた方がいいと思います。クッキーとかマドレーヌとか、あとは……カップケーキなんかもいいかもしれないですね」
「そういう類ですか……分かりました。そのあたりでしたら、迷惑にならないでしょうか?」
渡す以上は迷惑をかけたくない、そんな不安な気持ちのせいか、柊さんはヘニャリと眉を下げて尋ねてくる。
「大丈夫です。絶対迷惑だとか、いらないなんては思いませんよ」
ここまで思っている気持ちがあるならそれは相手に伝わるだろうし、食べ物系なら迷惑にはならないはずだ、そう思って俺は強く柊さんの背中を押した。
「そうでしょうか……」
あまり人に何かを渡すなんてことに慣れていないのもあるのだろう。不安は拭い切れないらしく、俺の言葉を聞いても柊さんはどこか心配そうだった。
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