第2話 学校一の美少女の生徒手帳を拾った
「なんだこれ」
バイト始めてからしばらく経ったある日の学校終わり、自宅への道を歩いていると紺色の手のひらサイズの手帳が落ちているのを見つけた。近づいてみると、その手帳は俺の学校の生徒手帳だった。
無視するのは良心が痛むし少しの好奇心もあり、拾って中を見てみる。
『斎藤玲奈』
その手帳に記されていた名前は、あの有名人の彼女の名前だった。
(どうするか……)
手帳の対処に困り頭を抱える。拾った以上は届けるべきだろうが、生憎と教室で彼女に話しかけるような勇気はない。
話しかけたところで彼女は塩対応で有名な人であるし、冷たくされるのは容易に想像できる。
だがそれでも拾った以上は返さなければならないので、俺はため息をつきながら明日を憂いた。
♦︎♦︎♦︎
翌日の放課後、俺は下駄箱付近で斎藤を待っていた。
放課後ならあまり人目にもつかないので、噂になることも少ないだろう、そう思い俺はここで待つことにした。
しばらくすると彼女は姿を現した。
長い黒髪を煌めかせ、歩くだけ人目を惹く優れた容姿は、確かに学校一と言われるだけの事はある。
「少しいいか?」
声をかけるとぱっちり二重の瞳がこちらを向く。
相変わらずの綺麗な顔だった。きっと笑えば誰をも魅了できるような魅力的な笑顔だろう。
だが今は話しかけられた事に、そして今までまったく関わりのなかった人間からの接触に、黒の瞳にうっすらと警戒が滲んでいた。
「……なんですか?」
冷たく内面に一切立ち入らせない底冷えする口調から壁を作っていることは明らかだ。
その対応に少し傷付くが、流石に見ず知らずの人間に声をかけられればガードを固めるのは頷ける。
そもそも彼女は学年問わず校内の男子生徒から告白やアプローチを受けているらしく、あまり異性と関わりたくないのだろう。
下心を持っている、あるいは告白待ちでもしていると思われたのかもしれない。
「ほら、これ多分お前の落とし物だ」
こっちとしても別にこれ以上関わる気もなかったし、下心を持って近づいてきたと思われるのも嫌なので、素っ気なくぶっきらぼうに言い放って、生徒手帳を押し付ける。
「え……」
驚いたようにくりくりとした瞳が大きく開かれる。
手帳を受け取った斎藤はそのまま目をぱちくりとさせて固まっていた。
「じゃあな」
用も済んだので、斎藤が何かを言おうと唇を動かす前にさっさと足早にその場を離れる。
落とし物を返してやったのだ、多少丁寧さは欠けていても文句は言われないだろう、そう思いながら下校した。
どうせもう関わることはない。縁もないしこれっきりだ。
帰路についた俺はそう思っていた。この時までは。
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