【7/1発売】俺は知らないうちに学校一の美少女を口説いていたらしい

午前の緑茶

第1話 バイト先の彼女は学校一の美少女と同姓同名

「はぁ、今日から一人暮らしか。それにしても突然だよな」


 朝の眩しい太陽を浴びながら、誰に言うでもなくポツリと呟く。


 俺が一人暮らしを始めた原因、全ての発端は1週間前に始まった。

 父親が海外で働くことになり、それに母親がついて行くことになった。結局両親は俺を置いて、そのまま海外に行ってしまった。

 図らずも高校2年生の半ばで一人暮らしが始まったのだ。


 一人暮らしだからといって自由に暮らせるというわけではない。

 自分の家族も裕福ではないので、食費などは自分で稼がなくてはならないのだ。

 だが俺の学校はバイトを禁止している。かといってお金を稼がないわけにはいかない。


 そこで俺が思いついた方法は、変装してバイトを始めるという方法だ。

 幸か不幸か、俺は学校では影が薄く、あまりお洒落をした姿で過ごしていない。

 そこで、バイト先ではちゃんと髪型をセットしてお洒落をした姿で行けば、誰にも気付かれることなく働けるというわけだ。


 お洒落というものはやってみると意外と楽しく、つい頑張りすぎてしまった。

 そのおかげでちゃんとした身なりをしていれば、誰も俺だとは気付かないだろう。


 今日は早速応募したバイト先での勤務が始まる。

 ほんの少しだけ緊張しながら、俺はバイト先へと向かった。


♦︎♦︎♦︎


「今日から入る田中湊くんです。これから一緒に頑張っていきましょう」


「えっと、よろしくお願いします」


 店長に紹介され、他のキャストの前で頭を下げる。


「田中くんの指導は誰に任せようかなー。あ、じゃあ、柊さんお願いできる?年も近いし、話しやすいと思うんだよね」


「……分かりました」


 俺の目の前に立っている人が柊さんらしい。目にかかるほど長い前髪にキュと結ばれた口元。黒縁のメガネをかけて、ぱっと見た印象は地味な女の子といった感じだ。


「初めまして、柊玲奈です。よろしくお願いします」


 少し冷たく壁を作るような物言いから警戒しているのが伝わってくる。少しだけ嫌な気分になるが、まあ、初対面であるし異性でもあるのだから警戒されるのは頷けた。


 それよりも彼女の名前に少し引っ掛かりを覚える。玲奈という名前には聞き覚えがあった。俺の学校には斎藤玲奈という女子がいる。学校一の美少女として知らない人はいないほど有名人だ。


 俺も別にそこまで詳しくはないが、彼女はいるだけでとても目立ち、通り過ぎるだけで視線を惹きつける優れた容姿をもっている。


 彼女の髪は光が当たるとキラキラ煌めくような輝きを放つ黒髪。目はぱっちりと二重、彫刻像のような整った鼻筋に、ぷるんと果実のような熟れた赤い唇、そしてきめ細かい白い肌。端的に言って彼女は見惚れるほど愛らしい美少女なのだ。


 そんな人物と同じ名前に少しだけ驚くが、まあよくある名前ではあるし、同じ名前の人物がいたとしてもおかしくはない。違和感はすぐになくなった。


「よろしくお願いします」


 目を合わせて頭を下げると、ふいっと目を逸らさられる。警戒するのは悪いことではないと思うが、あまりに距離を置かれると仕事がやりにくくなりそうで、少し先が心配になる。


「……じゃあまずは、接客のやり方から……」


 柊さんに案内されて、一つ一つ仕事の案内をしてもらっていく。意外にも説明は丁寧で分かりやすい。所々覚えにくいところも質問すればちゃんと教えてくれた。無愛想だが仕事は丁寧ならしく、上手くバイトの仕事を覚えられそうでほっと安堵する。親しくはなれなさそうだが、仕事の付き合いは上手くいきそうだ。

 こうして俺の変装バイト生活は少し無愛想なメガネ女子と出会うことから始まった。


ーーーーただの仕事仲間、そう思っていたこの柊さんが後に最強の相談相手になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る