5-5
数日後。
「ももちゃんには悪いことしたわね……」
と反省モードのからくり館の住人、おりょうの元へ。
「こんにちは、おりょうさん」
桃香が訪れた。
「あ、ももちゃん……えっと……その……この間は……」
気まずそうなおりょうに向かって、桃香はさらりと言った。
「なんかね、上手くいっちゃったよ」
「えっ、まっ、まじなの?」
「うん、まじよ。これからは、ちゃんと付き合おうって」
週明けの月曜の放課後。
桃香は孝生から体育館の裏に呼び出され、そこで正式に告白をされたらしい。
「まさか……あのドタバタの展開から?」
「うん、自分でもびっくりじゃわ。でもね……」
「でも?」
「ていうか、コウちゃんが言うにはね」
「モエカ、こないだは助けてくれてありがとな。おめえって、ぼっけえ強くて勇ましくて頼もしい女じゃのお。オレ、一生おめえに付いて行くけえ。これからもずっとオレの傍に居てくれ。そんで、おっそろしいバケモノや幽霊から、オレのことしっかり守ってくれよな!」
「なんじゃて」
「はあ…………」
「なんか期待してたのと、全然違うんじゃけど……」
桃香はもっと、男らしくて頼もしいカレシが、か弱い自分を勇ましく守ってくれるシチュエーションを期待していたのだ。
「ようするに、うちと付き合いたいってのは。魔除けの用心棒にしたいって意味なんじゃろおか……」
しゅんとしおらしげな桃香の肩を、おりょうは笑顔でぽんぽん叩いた。
「まあ、いいじゃない。結局、上手くいったんだから。恋なんて、終わり良ければすべて良しよ」
◇
まほろば堂のカフェスペースの一組しかないテーブル席。
学校帰りの桃香はそこを、今日もひとりで陣取っている。
しかし、実際はひとりじゃない。
人懐っこい桃香はこうやって、美観地区の幽霊たちとお茶をしながらダベっているのだ。
今日のお供は、おりょうとツッパリヤンキーふたり組。
ふたりはメイドの望美目当てで、ここに頻繁に通っているそうだ。
「望美さんはワイのヨメじゃけえ、
「うっせえ、望美ちゃんはワシのオナゴじゃ、喧嘩上等じゃあ!」
おりょうが恋の相談に乗り。
「おふたりとも諦めなさいな、彼女とは住む世界が違うんだから」
横で桃香が茶々を入れる。
「そうそう。ていうか仮に同じ世界でも、あんたらじゃまず無理じゃて」
そんな四人の会話を離れた場所から、和装メイドの望美が聞き耳を立てている。
「……桃香ちゃん、何の話題について喋ってるんだろう?」
生身の人間の望美には、霊感少女が誰と何を話しているのか、さっぱり分からない。
「いらっしゃいませ。皆さん、随分と楽しそうですね」
白髪の藍染め着流し店長が、お盆を手に暖簾の奥から顔を覗かせる。
「あっ、店長さん。こんにちは」
「こんにちは桃香さん、それに皆さんもお揃いで」
「ちいーっす」「ども」
「ごきげんよう店主殿。
慌てて席を立ち、丁寧にお辞儀するおりょう。彼女の白い顔に、ほんのりと紅が浮かぶ。どうやら、ここの店主が密かにタイプのようである。
酸いも甘いも知り尽くしたアラフォーハンドレッドな恋の達人も、イケメン店主の前ではか弱き乙女に戻るみたいだ。
「はい、こちらはサービスです」と、真幌が五人分のグラスを差し出す。
「うちのメイドが朝早くから仕込みをした、お手製の白桃フレッシュジュースです」
「わあ、美味しそう!」と桃香がはしゃぐ。
「おお、ワイの望美さんのジュースうまそー!」
「こりゃあ、ワシの望美ちゃんのジュースじゃけえ!」
「本当に美味しそうだわ、丁度喉が乾いておりましたの。店長さんに望美ちゃん、ありがとうございます」
幽霊三人の歓喜の声は、残念ながら望美の耳には届かない。
「あたしの分まで……どうもすみません店長」
頭を下げる望美に、真幌は軽くウィンクをした。
「店長さんっ。今日もテーブル席を占領しちゃってごめんね」
桃香が頭を掻きながら、ペロリと舌を出す。
「いいんですよ、平日で客足も少ないですし。むしろ、うちとしても助かっています」
おりょうと桃香。最近では、ふたりとも夜の客である生霊の相談相手にもなってくれている。多忙な店主としては大助かりだ。
淡いブルーの倉敷硝子のグラスに入った白桃ジュース。それを桃香がズズズと音を立てストローで飲み干す。
「あー、おいしー。望美さんのお手製ジュースは、ぼっけえ最高じゃがあ!」
カランと氷の鳴る音と共に、桃香の元気な声が店内にこだまする。
無邪気な霊感少女の笑顔を見ながら、お
(次話へ)
★其ノ五 あとがき
おりょうさんのモデルは、実際の『桃太郎のからくり館』で、僕と娘を出迎えてくれた白装束姿をした美人な店員のお姉さんです。美観地区の穴場的なスポットですのでお越しの際は是非。
https://momotaroukan3.wixsite.com/momo
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