其ノ六 ナマポだいすき
6-1
倉敷市街の寒い雪の日の夜。
街灯の下で、幼女が膝を抱えてしゃがみ込んでいる。
その姿を見かけた通りすがりの少女は、幼女に声を掛けた。
「どうしたの?」
幼女が寒さで震えながら、上目遣いで答える。
「ママがおともだちがきてるあいだは、おもてにでてなさいって」
「……おうちはどこなの?」
幼女が街灯傍の古めかしいコーポを指差す。その一室の住人のようだ。
温かそうな白い毛皮のコートを羽織った少女とは反対に、幼女は薄っぺらい安物のジャンパー姿。肩口や黒い髪の毛も、雪で半分白くなっている。
よく見るとこの幼女、ガリガリにやせ細っている。栄養が足りていないのだろう。しかも腕は抓られたような痣だらけだ。
少女が淡いピンクの手袋をはめた左手に持つ白い傘を、幼女に差し出す。反対の右手で幼女の雪を掃いながら、優しく問い掛けた。
「あなた、お名前は?」
「まりあ」
「まりあちゃんか、年はいくつ?」
「ごさい!」
まりあと名乗った幼女が掌を広げ、無邪気な口調で答える。
少女の方は、高学年児童ぐらいだろうか。この世代にしては背はすこし低めだ。栗色の猫っ毛ボブヘアーをした少女。色白の肌に、すこし猫っぽい切れ長の大きな瞳が特徴だ。
少女が手袋を外す。コートのポケットからスマートフォンを取り出し、液晶画面をまさぐり始めた。
「まりあ……五歳……住所は倉敷市……」
なにか調べ物をしているようだ。
「……そっか」と、スマホの画面を閉じながら少女は呟く。
今度は幼女が問い掛ける。
「ねえ、おねえちゃんはだあれ?」
「お姉ちゃんはね、天使なの」
「わあ、てんしさんなんだ。すごーいすごーい!」
自らを天使と名乗る色白の少女が、自分の手袋を幼女の小さな手にはめる。
そして白い傘を幼女の両手に持たせ、自分の着ていた白い毛皮のコートを、ふわりと幼女の肩に掛けた。
「ふわふわであったかい!」
寒空の下、幼女がぱっと笑顔になる。
「ありがとう、てんしのおねえちゃ……あれ?」
気が付けば天使の少女は、雪夜の中に消えていた。
◇
「へっくしょん!」
翌日、倉敷市郊外のワンルームマンションの一室にて。
出勤前の午後三時。ベッドから這い出した
「うーん、風邪引いたかしら。でも変ねえ、加湿器も付けて温かくして寝てた筈なんだけど……」
栗色の猫っ毛ボブヘアー。色白の肌に、すこし猫っぽい切れ長の大きな瞳が特徴だ。
白いベッドの隅に、ちょこんと鎮座する白猫に話し掛ける。
「ねえ。変だよねえ、ハナちゃん?」
「みい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます