5-2
数週間前。
平日の初夏の午後。からくり博物館に、色白で背の低い丸顔の女子高生が訪れた。
「こんにちは、おりょうさん!」
「あら。いらっしゃい、ももちゃん」
おなじみの霊感少女、桃香だ。
ポニーテールの黒髪がふわりとなびく。
夏の制服からは、すこし
学校帰り。いつものようにまほろば堂のカフェスペースで寄り道をした後、今日はおりょうに恋バナの相談に乗ってもらいたくて、からくり博物館へと訪れたのだ。
桃香はまほろば堂のカフェスペースの常連で、メイドの望美を姉のように慕っている。だが当の望美は恋愛の話題になると、どうも疎くて物足りない。
だからこの手の話の時は、いつもこちらを頼りにしているのだ。
「ねえ。ちょっと聞いてよ、おりょうさん」
霊感少女の桃香が親しげに、長い黒髪に白装束姿の女性の幽霊に話し掛ける。
お
色白で薄い顔立ちの和風美人。紅い口紅が特徴的だ。見た目は四十路ぐらいだが、かれこれ四百年もこの界隈で暮らしている。江戸時代からの古株なのだ。
「どうしたの、ももちゃん。話してごらんなさいな」
いわゆる美観地区周辺の幽霊たちのご意見番。中でも主に
頼れるキューピッド姐さんとして、これまで何組もの寂しい独り身の幽霊たちをカップリングさせてきたのだ。
それは霊に限ったことではない。一般の人間カップルもだ。
別に本人たちに頼まれた訳でもないのに、ある
「こないだ、ももちゃんが言ってた幼馴染くんの事かしら?」
「そうなんよ。でね、おりょうさん。コウちゃんったらね」
桃香の恋バナの議題は、幼馴染の
小中高とクラスまで一緒の腐れ縁。幼い頃から互いに距離が近すぎて、友達以上恋人未満の状態から発展しないのが、どうも悩みの種らしい。
「そっか、なるほどね」
桃香の立ち話を、たっぷりと聞き終えた後。おりょうはニヤリと笑って言った。
「おねえさんに任せて、秘策があるの」
「えっ、どんな?」
おりょうが己の策を、ひそひそと耳打ちする。いつもの定番のあれだ。
「いいじゃん。名案じゃわあ、それ頂きっ!」
桃香も、にこにこ顔で納得だ。
平日で他の客がいないことをいいことに地縛霊と霊感少女は、秘策についての綿密な打ち合わせを店内で始めた。
「くっくっくっ。おりょうよ、そちも
「いえいえ、桃香お代官さまほどでは」
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