4-13

 深夜のまほろば堂。

 今宵は珍しく、生霊との面談の予約は入っていない。


 しかし備中和紙に包まれた雪洞のペンダントライトには、先程からある映像が浮かび上がっている。まるで球体のスクリーン、いや三次元立体映像ホログラムだ。


 テーブル席には忍と黒猫。ふたり、いやひとりと一匹で、業務記録の録画映像ログを鑑賞している最中なのである。


 マホは黒猫の姿のまま、ちょこんと木製テーブルの上に乗っている。


「ねえマホ。そこ、もいっかい巻き戻してよ」と忍が指示を出す。

「にゃっ」


 黒猫が尻尾をかざすと、業務映像は巻き戻された。


【「承りました。とお返事することは、もちろん可能です。しかしお客様は、本当にそれで宜しいのですか?」】


 忍が、けらけらと腹を抱えて笑う。黒猫もにゃあにゃあ上機嫌だ。


「そこ、もいっかい」

「にゃにゃっ」と尻尾をかざすマホ。


【「しかしお客様は、本当にそれで宜しいのですか?」】


「あー最高、ちょー受けるー!」

「にゃにゃっ」


「ねえ見てよ、この真幌の顔ったら。こめかみの辺りなんて、ヒクヒクしてるし」

「にゃにゃにゃにゃっ!」


 忍と黒猫。このふたり仲が良いのか悪いのか、さっぱり謎である。

 とでも言いたげに、店主の真幌が背後からバツの悪そうな顔で声を掛ける。


「あの、忍さん……」

「ん、何かね真幌クン?」と、忍がニヤリと振り返る。


 忍は真幌の義理の姉。しかも幼い頃から、姉弟同然に育ってきたのだ。


「……それ観るの、さっきから何度目?」

「だってさ。この時の真幌って最高に面白いんだもん」

「にゃにゃにゃにゃーっ!」


 真幌が「まったく……マホまで一緒になって」と眉をひそめる。


「こういった業務記録は、お客様のプライバシーに拘わることだから。おいそれと見せることははばかられるんですけど……」


「いいじゃん、アタシも今回の業務ミッションの関係者で協力者なんだからさ。なんか文句ある?」

「にゃい、にゃい」


 これは後学のための学習映像なのだと、忍は義理の弟を強引に突っぱねる。

 しかも冥土の土産屋オーナー黒猫マホの合意の上。

 業務上、なんの支障もない。


「まあ、確かにそうだけど……」

「ていうかさ。こん時の真幌、めっちゃ必死だよね。ほらほら、ここなんて特に」


「にゃあ、にゃあ」と黒猫が雪洞に尻尾をかざす。


【「本当にそれで宜しいのですか?」】


 真幌の端正な白い顔が、かあっと真っ赤に染まる。


「って、声上ずってるし。まじでちょー必死。うけるー!」

「にゃにゃにゃーっ!」


 ひとりと一匹が、腹を抱えて笑い合う。

 そうやって何度もリピート再生させる、ドSな忍姐さんであった。


「もうっ、好きにしてくださいよ!」


 いつもの冷静な態度キャラは何処へやら。子供のようにへそを曲げた真幌は、藍染暖簾を払い除け、そそくさと店の奥へと引っ込んだ。


(次話へ)

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