2-2
倉敷駅周遍のワンルームマンションの一室。
陽も傾き始めた頃、
「あー、出勤前なのにセットが決まらないっ」と鏡台の前で、いつもの猫っ毛と格闘中。色白の肌に、すこし猫っぽい切れ長の大きな瞳が印象的だ。
今年で三十歳になる葉子は、倉敷駅前で自営の接客業を営んでいる。平日の営業時間は一般的な帰宅時間に合わせている為、彼女にとって夕方が最も慌ただしい時間帯なのである。
床に畳んで置いていた洗濯物に足を取られ、ローテーブルに膝をぶつける。
「痛ったー!」
そんな調子で彼女の白い膝小僧には、無数の青あざが。童顔で見た目は猫のように可愛らしい葉子だが、すこしあわてんぼうでおっちょこちょいなのが玉に瑕だ。
「みぃ」
ベッドの上では白猫がちょこんと座っている。
大丈夫? と言いたげに、蒼い大きな瞳でご主人様を見つめている。
艶やかな毛並みをした雌猫。数か月前から部屋のベランダに住み着いて以来、こっそりペットとして飼っているのだ。
「ハナちゃーん。ママお仕事行ってくるからねっ。良い子でお留守番――」
ハナと呼ばれた白猫の頭を葉子が撫でた、その瞬間。
「え?」
白猫の蒼い目が光った。
それを見た葉子は、ベッドにパタリとうつ伏せで倒れ込んだ。
気を失った葉子の傍の白猫も、続けてその場に倒れ込む。
刹那、飼い主の葉子の身体が閃光に包まれた。葉子の背が瞬く間に縮んでゆく。
数秒後。光が治まると、そこには色の白い少女の姿があった。
「――さて、と」
ぶかぶかの衣服を脱ぎ捨てる。栗色の猫っ毛ボブヘアーをした少女は、そのままベッド脇のクローゼットへと向かった。
引き出しの底をまさぐり、家主すら知らない隠しスペースの蓋を開ける。
そこには白い下着と白い膝上スカート。淡いピンクのスニーカーとポシェット。それにオフホワイトのサマーニットが収納されていた。
手早く着替える。衣服はいずれも一四〇の高学年女子児童用ジュニアサイズだ。
身支度を終えた少女は、ちらとベッドの上を見た。
飼い主の葉子が、白猫の姿で気絶し意識を失っている。
そう。飼い猫のハナが、飼い主に憑依し入れ替わったのだ。
栗色の髪は、どうやら地毛のようである。
蒼い瞳をした少女は、ベッドの上で眠る白猫の背中を撫でて言った。
「ようこちゃん、ママはお仕事行ってくるから。良い子でお留守番してるのよ」
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